全国の直轄工事の入札公告を見ると、最近はICT活用工事だけではなく、BIM/CIM活用工事の発注数も目に見えて増加しています。また、国土交通省が「2023年度までに小規模工事を除くすべての公共工事でBIM/CIMを原則適用する」という方針を打ち出しているのはご存知だと思います。
「BIM/CIMは建築のことで、ICTは土木のことじゃなかったかな」と未だ勘違いをされている方もいるかもしれません。
そこで今回は、日々現場対応で忙しい現場監督さんのために、ICT活用工事とBIM/CIM活用工事の違いなど、今さら聞けないBIM/CIMについてわかりやすく解説したいと思います。
目次
BIM/CIMとは
国土交通省の定義
まず、BIM/CIMという言葉の意味を理解しておきましょう。国土交通省では「BIM/CIM」を次の概念として定義しています。
BIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling, Management)とは、コンピュータ上に作成した3次元の形状情報(3次元モデル)に加え、構造物及び構造物を構成する部材等の名称、形状、寸法、物性及び物性値(強度等)、数量、そのほか付与が可能な情報(属性情報)とそれらを補足する資料(参照資料)を併せ持つ構造物に関連する情報モデル(BIM/CIM モデル)を構築すること(Building/ Construction Information Modeling)、及び、構築した BIM/CIM モデルに内包される情報を管理・活用すること(Building/ Construction Information Management)をいう。
引用:国土交通省 BIM/CIM活用ガイドラン(案)第1編共通編(令和3年3月)
冒頭でお伝えした「BIMが建築」で「CIMが土木」という表現はどこにも見当たりません。
実はBIMという概念が先に普及したのは建築分野でしたが、その後土木分野で活用する仕組みとして、2012年にCIMという概念を国土交通省が提唱しました。
ところが、国際的にはBIMを標準化する動向があったため、2018年9月にそれまでの概念を改め、BIM/CIMとして統一されたのです。
BIM/CIMモデル
この概念図を見ると、各プロセスで使用される「BIM/CIMモデル」という用語が目につきます。
BIM/CIMモデルとは、主に次の3つが組み合わさったものを指します。
3次元モデル
対象とする構造物等の形状を3次元で立体的に表現した情報
属性情報
3次元モデルに付与する部材(部品)の情報、数量、そのほか付与が可能な情報
参照資料
BIM/CIMモデルを補足する従来の2次元図面等の「機械判読できない資料」
実際にBIM/CIM活用工事では、地形モデル、地質・土質モデル、線形モデル、土工形状モデル、構造物モデル、統合モデルといった分類でBIM/CIMモデルが使用されます。
ICTとは
用語の意味
次に「ICT」について整理してみましょう。
ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略語で、IT(情報技術)から拡張された様々な業界で使われる用語です。
建設業界においては、ICT活用工事、ICT施工、ICT土工、ICT建設機械のように使われています。
ICTの全面的な活用(ICT活用工事)
次の施工プロセスの各段階でICTを全面的に活用する工事を「ICT活用工事(※)」と言います。
- 3次元起工測量
- 3次元設計データ作成
- ICT建設機械による施工
- 3次元出来形管理等の施工管理
- 3次元データの納品
例えば、3次元起工測量では地上型レーザースキャナーで計測し点群データを作成、3DCADを使って作成した設計データを、マシンコントロールやマシンガイダンス機能付きのICT建機に設定し施工、出来形の3次元計測データによる出来形管理を行い、完成した3次元データは電子納品するというのがICT活用工事になります。
※土工の場合
BIM/CIM活用工事とICT活用工事
BIM/CIM活用工事
BIM/CIM活用工事とは、国土交通省の実施要領には次のように記載されています。
建設生産・管理システム全体の課題解決および業務効率化を図るため、建設生産・管理システムにおける施工プロセスの各段階において、BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)を活用した検討等を実施し、必要なBIM/CIMモデル等を構築する工事である。
引用:国土交通省 「BIM/CIM活用工事実施要領」より抜粋
ICTもBIM/CIMも施工プロセスの各段階で活用する技術という意味では同じです。
BIM/CIM活用工事の場合は、BIM/CIMの導入によりICTの全面的な活用を推進し、建設プロセス全体の課題解決と業務効率化を図ることが目的ですので、設計図書の中に3次元データがあるのが特徴です。
いずれにしても、対象工事の仕様書には諸々の要求項目が明示されていますので、該当する工事を受注された際には、まずその内容をよく確認することが必要になります。
必要経費の計上
どちらの工事でも、ICT・BIM/CIMを活用する上で必要な経費は計上できるようになっています。
ICT活用工事については、発注方式により計上内容が異なるため積算要領を確認するようにしましょう。
現段階では、工事に対する発注図面は2次元のものが主流です。そのため、受注者が3次元設計データを作成し照査を行います。この設計データの3次元化にかかる費用は、当面の間は発注者が負担します。
3次元の設計ストックが準備されてくると、発注図面が3次元でくるようになるわけです。
2年前倒しされた原則適用
冒頭でお伝えした通り、国土交通省は「2023年度までの小規模を除くすべての公共工事におけるBIM/CIM原則適用」に向け、段階的に適用を拡大しています。
この方針は、産学官一体となって構成されているBIM/CIM推進委員会で決定されるものです。2020年2月に実施された同委員会の資料には「2025年度に全事業でBIM/CIMの原則適応を目指す」と記載されていました。
それが、その後の2020年9月に実施された次の委員会資料では「2023年度までに小規模工事を除くすべての公共工事でBIM/CIMを原則適用する」という2年前倒しの表現に変わっているのです。
先日、2022年度のBIM/CIM実施方針が出されました。これを見ると、2022年度は大規模構造物の工事については「設計3次元モデルを用いた設計図書の照査、施工計画の検討」にBIM/CIMを原則適用で進める方針のようです。
BIM/CIM活用業務、工事の推移
次のグラフは、2012年以降のBIM/CIM活用業務と工事の推移を表したものです。
業務とは「測量」「調査」「設計」プロセスに関する公共事業で、工事は「施工」プロセスに関するものです。
建設生産プロセスの上流でBIM/CIMを活用すれば、おのずとその後のプロセスでも適用されるのは容易に想像できます。そのため、BIM/CIM活用工事の数もそれにあわせて増加するわけです。
「2023年度までに小規模工事を除くすべての公共工事でBIM/CIMを原則適用する」流れがある以上、BIM/CIM活用業務と活用工事の推移は今後も右肩上がりであることは間違いないでしょう。
まとめ
ここまで色々と解説しましたが、ICT活用工事であってもBIM/CIM活用工事であっても、必ず活用するのは3次元モデルです。
活用する段階と方法は工事内容によって異なります。その要求項目はしっかり仕様書に記載されていますので、まずは仕様書をよく読むことが重要です。
記載の意図が不明であれば担当の監督員に確認し、必要があれば協議を行います。
工事に関わるあらゆる方々とイメージを共有できるのが3次元モデルの最大のメリットです。
新たな技術導入はもちろんですが、まずは3次元モデルを最大限活用することを基本に考えると、該当工事の管理がしやすくなるのではないでしょうか。