発注者情報-i-Construction
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ICT舗装工で利益は出たのか?実績とメリットを現場所長にインタビュー(株式会社真幸土木)【ICT施工利益化シリーズ】

今回より、連載「ICT施工利益化シリーズ」をスタートします。建設ICT.comでは、2020年を「ICT施工利益化元年」と位置づけ、ICTで利益を出すノウハウを検証し、i-Constructionに関わる全ての人にとって有益な情報をお届けしたいと考えています。

今回はシリーズその第1弾として、ICT舗装工の事例を紹介します。

1. はじめに

2016年度に「ICT土工」からスタートしたICT活用工事の取り組み。翌年2017年4月からは、「ICT浚渫工(港湾)」と並び「ICT舗装工」にも工種が拡大した*。更に、2020年度からは「ICT舗装工(修繕工)」が加わったが、「ICT舗装工」の開始から丸2年が経過した2020年現在でも、ICT舗装工の事例は全国的にまだまだ少ないのが実情だ。(2020年5月現在)

建設ICT.comが、ICT舗装工の普及度や施工事例について調査したところ、島根県東部に比較的「ICT舗装工」の実績が多いとの情報を得た。

そこで今回、島根県松江県土整備事務所初の試行案件で、施工者希望B型により「ICT舗装工」を実施された島根県松江市の「株式会社真幸土木様」に特別インタビューを敢行。

インタビューに快く応じてくださったのは、株式会社真幸土木の工事部次長で、現場所長の江藤潤さんと、施工を担当された株式会社佐々木建設の堀内さんだ。

今回は、ICT舗装工を実施されたお二人に、ICT舗装工の実際についてお話を伺った。

*2020年現在は、「ICT浚渫工(河川)」「ICT地盤改良工(浅層・中層混合処理)」「ICT法面工(吹付工)」「ICT付帯構造物設置工」「ICT地盤改良工(深層)」「ICT法面工(吹付法枠工)」「ICT舗装工(修繕工)」「ICT基礎工・ブロック据付工(港湾)」まで拡大。

2. ICT舗装工の実施状況(平成30年度)

下の表は、平成30年度工種別ICT活用工事の実施状況を表している。ご覧の通り、ICT施工対象工事の施工者希望I・II型の実施率を見ると、ICT土工が52%、ICT浚渫工が88%、ICT浚渫幸(河川)が100%に対し、舗装工は35%に留まっていることがわかる。

国土交通省 ICT施工の普及拡大に向けて取組
国土交通省「ICT施工の普及拡大に向けて取組」より一部抜粋

3. 島根県初のICT舗装工ー株式会社真幸土木の取組

株式会社真幸土木が施工したICT舗装工の基本情報は以下の通り。

工事名:     国道432号(古志原工区)防災安全交付金(交通安全)工事第7期
発注者:     松江県土整備事務所
工事種別:  道路改良工事、電線共同溝工事
管理:        株式会社 真幸土木
施工:        株式会社 佐々木建設

参考リンク

現場は、通行人や車の出入りが激しい国道432号線。車の通行量は1日約1万台にものぼり、住居や店に入る通行人も途絶えることがない。一見ハードルの高いこの拡幅工事でどのようにICT舗装工に取り組んだのだろうか?

4. 「採算がとれる工程を選んだ。」

今回の工事では、「上層路盤にICTグレーダーでマシンコントロールを使用し、下層路盤は従来建機を使用した。」という江藤さん。その理由は何だったのだろうか?

ー江藤さん
「建機は、舗装機械に強い西尾レントールからCAT三菱のICTグレーダーをレンタルしました。うちが施工したのは全事業のうち約200mで、実際にICTグレーダーを使用したのは150〜160m位。距離は短いですが、住宅や店舗への出入りがありますので、工事期間を短く区切って施工する必要がありました。下層路盤からICTグレーダーを使用できないこともありませんでしたが、採算が合いません。逆に上層路盤を仕上げるのにICT施工は向いていました。本当にICT活用だけの目的なら下層路盤からICT施工をしても良かったけど、採算がとれる工程のみをICTで実施しました。」

ICT施工の現場では「3次元測量やICT建機手配のコストがかさみ、利益を確保するのが難しい」と叫ばれているのが実情だ。利益を確保しながらICT施工を実現するには、本取組のように、どこまでをICT施工で行うのか、ICT施工に適する工程とそうでない工程を見分ける現場所長の判断と工夫が重要なポイントであることがわかる。

「面積が広く市街地以外の道路であれば、下層路盤からICT施工もアリだと思います。でもこの工事は場所が出入りが激しい市街地だったので、上層路盤のみICT施工しました。」と語る江藤さん。

この判断が、ICT施工による利益の確保を実現したのだ。

ICTグレーダーでICT舗装工を実施する様子(島根県松江市・株式会社真幸土木)
ICTグレーダーでICT舗装工を実施する様子(島根県松江市・株式会社真幸土木)

5. ICTグレーダーの効果を実感

従来施工では熟練の技術が必要とされているグレーダー操縦だが、実際にICTグレーダーを使用してみて、従来施工と違いを感じる点はあったのだろうか?

ー江藤さん
「従来施工では、丁張りを張り、高さを測って低ければもう一度やり直しになる。検測が従来施工では3人必要なところ、今回は2人で済みました。人員が1名減らせるメリットは大きいですね。仕上がりもきれいでした。」

ー堀内さん
「刃が自動で動いてくれるから、食い込まないので高さの精度が高い。今までやっていたときよりも楽でした。ただ、モニターを見て数字は合っているけど、やっぱり実際に施工できているかは気になりましたね。丁張りがそこにないわけですから。でも施工面を測ってみたら精度が出ていました。」

ー江藤さん
「実際にICTグレーダーを使ってみて、お勧めはできますよ。コスト面は従来建機よりかかりますが、仕上がりがきれいで効率も上がりました。」

ー堀内さん
「さすがに全くの素人は運転できないと思いますが、走行と送りだけできれば、高さはデータ通り建機が自動でやってくれます。初心者でもICTグレーダーなら操縦できると思います。」

堀内さんは熟練のグレーダーオペレーターだ。その堀内さんでさえも、ICTグレーダーで効率化を実感したと言う。

ー江藤さん
「オペレーターが絶対に前進と後進を見ているから、当然安全面も上がりました。」

丁張りの人員を削減し、仕上がりもきれいで、更に安全面も向上するとなれば、ICTグレーダーによる施工はいいことづくしだ。

フィニッシャーは従来建機で施工した。

ー江藤さん
「アスファルフィニッシャーは、高さを設定して吹き付けるだけであるため、 グレーダーで路盤がきれいに仕上がっていれば、その上の層もきれいに仕上げることができますね。」

国土交通省 I現場の図面を見ながらインタビューに答える江藤工事次長(右奥)と堀内さん(右手前)CT施工の普及拡大に向けて取組
現場の図面を見ながらインタビューに答える江藤工事次長(右奥)と堀内さん(右手前)
建設工業タイムズに掲載された記事
建設工業タイムズに掲載された記事

まとめ

ICTグレーダーを使用したことによって、効率(人手)、施工品質、安全面で従来建機よりも効果が高かったことがわかった。これを実際に施工管理を行った企業から聞けたことは大きい。

従来施工で舗装工のグレーダーは専門性の高い重機で、ただでさえ人手不足が深刻な業界の中で、グレーダーのオペレーターに関してはことさら「ベテランが引退したらどうしよう」と頭を抱える企業も多いことだろう。

それが、熟練のオペレーターでなくても、機械の操縦と前進・後進さえできれば、初心者でも施工ができることもわかった。これは人材不足への解決策であるとともに、i-Constructionが目指す新3Kの実現に大きく寄与することだろう。

ICT施工に取り組んだことのある企業の中には、「建機の手配が大変」「測量でゴタゴタした」などの理由からICT施工を「2度としない」と言う現場所長も少なくない中で、今回取材した株式会社真幸土木のICT舗装工は貴重な取組事例と言える。

「あくまでも機械(マシンコントロール)を入れただけ」と江藤さんは謙遜するが、採算の取れる工程のみをICTで取り組んだことは、現場所長として合理的な判断であり、それでもICT施工にチャレンジする意義は大きい。しかも、元請けで受注した工事で初めてのICT施工だというから驚きだ。

今回のインタビューで、株式以外社真幸土木の取組事例は、まだまだ発展途上のi-Constructionを推進する上で有効なアプローチだと感じた。「一歩を踏み出せない」「何から初めて良いかわからない」という企業も、まずは採算がとれる工程からICT施工スタートの一歩をチャレンジしてみるとよいかもしれない。そうして経験が積み重なっていけば、現場所長の創意工夫や新たな対応策が生まれてくるだろう。それが結果的に日本全国のICT施工を推進するヒントなのかもしれない。

株式会社真幸土木の江藤工事次長(左)と佐々木建設の熟練グレーダーオペレータ堀内さん(右)
株式会社真幸土木の江藤工事次長(左)と佐々木建設の熟練グレーダーオペレータ堀内さん(右)

株式会社真幸土木
株式会社佐々木建設


ICT施工利益化シリーズ第1弾の今回は、島根県東部で初めてのICT舗装工を実施した株式会社真幸土木様にお話を伺いました。

施工の一部をICT化する手法が、これからICT施工にチャレンジする企業様の利益化に有効であることがわかりました。

しかし、発注者指定型の場合や、将来的に全工程がICT化される時代が到来したときにどう利益化するか?はまだまだ業界全体の課題です。

建設ICT.comでは、これからも利益化ノウハウを検証し、業界全体のi-Constructionの推進に寄与すべく追求していきます。

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