ICT技術-3次元データ
ICT技術 ―3次元データ

3次元設計データと3次元施工用データの違い【ICT施工実務シリーズ①】

こんにちは。i-Constructionスペシャリストの測量士、川口です。

ICT建機のマシンコントロール・マシンガイダンス機能を活用することによって、山切りの法面掘削など、熟練の建機オペレーターでなければ難しかった施工が、経験の少ない若手のオペレーターでも対応しやすくなりました。

その理由は、皆さんもご存知の通り、正確な位置が計測できるICT建機に「3次元データ」が反映されているからです。

この「3次元データ」によって、オペレーターの経験値に依存せずデータどおり正確に施工することが可能となりました。その施工精度は、熟練オペレーターと同等もしくはそれ以上と言っても過言ではありません。私も現場でICT建機の設定を行いますが、その専用ディスプレイはまるでスマートフォンのようで、経験がなくても直感的に操作できることに驚きます。


マシンコントロール/マシンガイダンスを動画で簡単解説!
【第3回】ICT施工ワンポイント講座「マシンコントロール/マシンガイダンスとは」


このように便利で作業効率がアップするICT建機ですが、建設会社様からはこんな声をよく聞きます。

ICT施工で始めたが、途中でやむを得ずICT施工をストップし、従来施工に変更した。

これはなぜでしょうか?

ICT施工が止まる要因

想定される要因はいくつかありますが、大きな要因として、3次元データの間違いが挙げられます。

ICT建機は、設定された3次元データ通りに現況位置を計測しながら正確に稼働します。それゆえ、設定された3次元データに間違いがあった場合には、間違ったデータの通りに稼働してしまいます。

同様に、データに不足があった場合にも、ICT建機の機能を最大限発揮することができません。

このように、「3次元データ」に間違いがあった場合、建機がうまく稼働せず、オペレーターがそれ以上作業を進めることができません。こうなると、ICT施工が止まってしまいます。

データの間違いを特定し、すぐにデータを修正することができればいいですが、そうでないケースがほとんどです。現場監督としては工事を止めることができないため、やむを得ず従来施工で進める、という判断になってしまいます。これがICT施工が止まる理由です。

「3次元設計データ」と「3次元施工用データ」の違い

ではなぜ3次元データの間違いが起こるのでしょうか。

私の経験から、データの間違いは「3次元設計データ」と「3次元施工用データ」の違いを理解していないことから起こると考えています。

ICT建機にとっての正確な3次元データは、「3次元施工用データ」です。
「3次元施工用データ」は、「3次元設計データ」とは異なります。

ここで、2つのデータの違いを説明します。

「3次元設計データ」

発注者から受け取った2次元発注図面をもとに、3次元化したデータのことです。
ICT活用工事では、設計図面の照査や出来形数量の算出、出来形管理の際に3次元設計データを使用します。また、完成検査でも使用されます。最終的に電子納品されるのも、この3次元設計データです。

国土交通省から一部抜粋した3次元設計データと構成要素(道路土工の場合)の図
国土交通省 「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」より一部抜粋

「3次元施工用データ」

現場でICT建機を動かすために必要なデータです。ICTバックホウのマシンコントロール・マシンガイダンス機能を活用するためには、設計面とバケットの刃先に差異が出ないよう、設計データよりも余裕を持った作図をします。そうすることで建機が制御不能になることを防ぎ、スムーズに操作することができます。

国土交通省のHPから一部抜粋したバックホウ施工用データ作成のイメージ図
国土交通省 近畿地方整備局
マシンコントロール/マシンガイダンス技術(バックホウ編)の手引書【施工者用】(平成30年2月)」より一部抜粋

「3次元施工用データ」は、「3次元設計データ」をもとに作成をするため、パッと見の違いはほとんどありません。

現場によっては、3次元設計用データをそのまま施工用データとして活用することが可能な場合もあります。しかし、基本的には現場状況にあわせて施工用データを別途準備する必要があります。

また、現場状況や施工方法、バックホウに限らず、ブルドーザーや転圧ローラーなどのICT建機にあわせた施工用データをそれぞれ準備することで、ICT施工が驚くほどスムーズに進められるようになります。

ICT施工を止めないために

以上を踏まえ、3次元設計データを準備する際は、次のようなことが起こらないよう気を付けてください。

  • データ作成の担当者(自社または委託先)が3次元データの違いを理解していないため意図したデータができない
  • 施工用データに反映させるべき作図要素がわからず、作成者に正確な指示が出せない
  • オペレーターへ施工方法を指示する際に施工用データをうまく活用できていない

また、従来建機の扱いに精通したオペレーターは多いですが、3次元データが設定されたICT建機の扱いはまだまだこれからのオペレーターが多いでしょう。

そのため、もし3次元データの間違いでICT施工現場が進行できなくなった場合、熟練オペレーターほどICT建機に拒絶反応を示したり、またはICT施工自体を否定してしまう、というリスクが高くなります。

こんな状況を避けるためにも、上記のポイントに気をつけて3次元データを準備していただきたいと思います。


ICT建機を使いこなす熟練オペレーターに関するコラム

ICT建機はオペが嫌がる!? むしろ、できるオペほど乗りたがるという事実【前編】

ICT建機はオペが嫌がる!?ICT建機にまつわる3つのオペストーリー【後編】


まとめ

今回は、ICT施工現場が止まる理由として、3次元設計データと3次元施工データの違いを説明しました。

ICT施工現場が止まる大きな要因は、3次元データの間違いです。3次元データの間違いが起こる原因は、データ作成担当者をはじめとするICT施工関係者が「3次元設計データ」と「3次元施工用データ」の違いを理解してないことが挙げられます。

まずは現場監督さんが「3次元設計データ」と「3次元施工用データ」をきちんと読み取れるかどうかが非常に大切です。データの役割や作図要素の違いを理解し、適切に発注元への説明や下請け業者への指示を行うことがスムーズな施工管理のポイントになります。

ICT施工実務シリーズ

【ICT施工実務シリーズ②】3次元設計ソフトウェア(3DCAD)の特徴と選定のポイント

【ICT施工実務シリーズ③】3次元測量で起こりやすいトラブル事例

【ICT施工実務シリーズ④】ICT建機の測位システムの選定ポイント

【ICT施工実務シリーズ⑤】ICT建機選定のポイント

【ICT施工実務シリーズ⑥】2020年度国土交通省のICT要領改定ポイント

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