こんにちは。i-Constructionスペシャリストの測量士、川口です。
今回は、国土交通省の「令和2年度向けICTの全面的活用」を実施する上での技術基準類」における各種出来形管理要領で改定されたポイントと、最新の要領を把握する重要性、およびその方法についてお伝えします。
はじめに
国土交通省のホームページには、「『ICTの全面的活用』を実施する上での技術基準類」として、様々な要領が掲載されています。各地方整備局や都道府県・政令市の基準や手引きも、これらの要領が準用されています。
※各種出来形管理要領が掲載されている国土交通省のページはこちら
工種や計測技術によって分けられている「出来形管理要領」は、ICT施工を行うためのまさに“バイブル”または“教科書”と言っても過言ではないでしょう。なぜなら、そこには要求精度、作業工程、精度管理、提出書類などの基準や手順が示されているからです。
現場監督にとって、こういった要領を理解し、適正な基準を把握した上で施工に取り組むことは、ICT施工を成功させる上で大事なポイントになります。
ところが、一度目を通しただけではなかなか理解ができないのが正直なところではないでしょうか。
そこで、今年度改定された要領の中からいくつかポイントを抽出して、わかりやすくお伝えしたいと思います。
2020年度に改定された主な出来形管理要領
各種出来形管理要領の中で、2020年度に新たに改定・追加が行われた要領です。
・ 「空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案) 令和2年3月」
・ 「地上型レーザースキャナーを用いた出来形管理要領(土工編)(案) 令和2年3月」
・ 「地上型レーザースキャナーを用いた出来形管理要領(舗装工事編)(案) 令和2年3月」
・ 「地上移動体搭載型レーザースキャナーを用いた出来形管理要領(舗装工事編)(案) 令和2年3月」
・ 「TS(ノンプリ)を用いた出来形管理要領(土工編)(案) 令和2年3月」
・ 「TS(ノンプリ)を用いた出来形管理要領(舗装工事編)(案) 令和2年3月」
・ 「無人航空機搭載型レーザースキャナーを用いた出来形管理要領(土工編)(案) 令和2年3月」
など
出来形管理要領を把握するのは難しい
これからICT施工に取り組まれる建設会社様、現場監督の方にとって、最初に見る出来形管理要領は、学校で新しい教科書を初めて開いたときの感覚に近いかもしれません。
「ローカライゼーション」「RTK-GNSS」「点群データ」「3次元設計データ」など、初めて目にする用語も多く、初見で理解するのはおそらく難しいのではないかと思います。
その要因としては、こういった要領が現場のあらゆるケースを想定した上で、それらを包括した基準となるように策定されているため、要領内の文章を読むだけでは、その内容を読み解くことが難しいからです。
現場監督としては「自分の現場ではどうなのか?」が知りたいのだと思います。ところが、出来形管理要領に書かれている内容だけでは、特定の現場に当てはめて読み解くのは難解で、実作業に落とし込むことができなくなってしまうのです。
その場合は、その他の関連要領などの情報を調べ、該当する項目を読み替えるなど、根気強く理解を深めていく必要があります。
また、現場での最終的な判断基準については、要領を踏まえた上で、発注元と協議を行いながら段取りを進めていかなければいけません。そうすると、現場監督一人では負担が大きくなるため、社内のバックアップや協力会社も含めたチーム全体でICT施工に取り組むことが重要になります。
2020年度の要領改定のポイント
それでは、生産性がより向上すると予想される今年度の要領改定ポイントを2つご紹介します。
昨年までの要領との違いを理解することで「国土交通省がどうやってICTの全面的活用を促進しようとしているのか?」という施策の方向性を読み取ることができます。こういった情報を持つことが、現場での適切な状況判断つながると我々は考えています。
改定ポイント1)地上型レーザースキャナー測量の精度確認試験の実施期間
地上型レーザースキャナー(TLS)による測量を行う際には、事前にTLSの精度確認試験を実施する必要があります。(一般土工の場合は水平方向における精度確認試験。舗装工の場合は水平方向に加えて鉛直方向における精度確認試験を実施)
昨年度までは、精度確認試験の実施期間が6ヵ月以内でしたが、今年度からは12ヵ月以内までに改定されました。
今回の改定によって、現場内で1度精度確認試験を行えば、その後12ヵ月以内は別の現場で精度確認試験を行わなくてもそのまま速やかに地上レーザー計測が実施できるようになります。精度確認試験の時間と費用が減るため、現場で計測作業を行う方や現場監督にとってはうれしい改定ですね。
改訂ポイント2)無人航空機による空中写真測量時の納品データ
昨年度まで空中写真測量(無人航空機)を行う際には、電子成果品としてドローンで撮影した写真をすべて提出する必要がありました。2020年度からは撮影した写真から生成する「オルソ画像(地図でも活用される真上から見たような写真)」の納品で代替できるようになっています。
ドローン測量の計測範囲が広範囲の場合、写真枚数が数百枚から1,000枚を超えるため写真データだけでも大容量になることから、複数枚のメディアに分割して納品を行うケースも珍しくありませんでした。今回の改定で、管理業務を行う現場監督や検査を行う監督員の作業の省力化につながると考えられます。
まとめ
今回の記事では、現場でICT施工を実現するためには各種要領の内容をしっかり把握することが重要であることを2020年度の改定ポイントの説明を交えてお伝えしました。
今後も国土交通省は、現場の意見を取り入れて必要な基準類の策定、改定などを検討し進めていくことでしょう。
ICT施工の現場に関わる一人ひとりが、こうした関連情報にアンテナを張り、最新情報へアップデートしていく意識が大切です。
我々はこれからもICT現場の声や状況をお伝えしていくとともに、様々なサポートを通してi-Constructionに取り組む全国の建設会社様のお力になれればと思います。
ICT施工実務シリーズ
【ICT施工実務シリーズ①】3次元設計データと3次元施工データの違い
【ICT施工実務シリーズ②】3次元設計ソフトウェア(3DCAD)の特徴と選定のポイント
【ICT施工実務シリーズ③】3次元測量で起こりやすいトラブル事例