はじめに
i-Constructionに特化した測量会社である当社では、空撮・測量用UAV(ドローン)として、DJI製のPhantom4Proとエンルート製のQC630を所有していました。
いくつかの現場を経験する中で、高低差のある現場や樹木などの障害物を回避する必要がある現場においては、より高い飛行高度が必要になることがあり、新たに高高度対応可能なUAV(ドローン)の導入を検討することになりました。
今回の記事では、当社が測量用ドローンを選定するにあたって検討した機種や購入を決めた理由、実際に使ってみた使用感等についてお伝えしていきます。
目次
3機種に絞って機種選定(すべてDJI製)
使い慣れたPhantom4ProもDJI製であり、操作性も慣れていることや日本で広く普及しているメーカーであることから、DJI製の3機種を検討機種として選定しました。
選定にあたっては、実機のテスト操縦もできる販売代理店を訪問し、操縦士が操作感を確かめながら比較検討しましたので、以下ご紹介していきます。
参考となる価格帯も大まかに記載しておりますが、実際の費用は購入時に販売代理店にお尋ねください。
1)Inspire2(インスパイア2)
価格 約35万円+カメラ代
- 最大飛行時間:約23分~27分(公式HPより)
- 機敏な動きが可能なので、動画撮影に向いている機種
- ATTIモード対応
- カメラレンズは選択可能
- ケース付きで持ち運び可能
Inspire2は、クリエイティブな映像撮影を目的としているため、操縦のレスポンスも良く、機敏な動きが可能です。実際に操縦してみても、評判通りのレスポンスの良さで、機敏に動いてくれる、という印象でした。
様々なシチュエーションの撮影に対応できるように、取り付けできるカメラの種類も豊富なため、高高度での出来形測量の基準にも対応しています。
2)Matrice200シリーズ(マトリス200シリーズ)
価格 約80~140万円+カメラ代
- 最大飛行時間:33分(RTK210 V2・ペイロードなしの場合 公式HPより)
- 200V2、210V2、210RTKV2から用途に応じて選択
- 防滴対応
- ATTIモード対応
- カメラレンズは選択可能
- ケース付きで持ち運び可能
Matriceシリーズは、一般向けではなく産業用UAV(ドローン)の区分になるため、安定性と安全面により特化しているのが特長です。
シンプルモデル Matrice200 V2
Matrice200 V2は、3機種の中で一番シンプルな機種です。カメラの取り付け位置が下部に1個と一般的なUAV(ドローン)と同じです。対応するカメラはinspire 2と同様に豊富なため、Inspire2と比較して安定性の観点からより測量向けと捉えることができます。
多用途に活用可能 Matrice210 V2
Matrice210 V2には、機体の上部にカメラを取り付けられることから(※オプション)、橋梁の下側からの点検を可能としています。
下部にも2個のカメラを取り付け可能なので、例えば片方にズームカメラ、もう片方にサーマルカメラ(温度検知用)を取り付ける等、用途に応じて組み合わせができ、インフラ点検から災害救助まで広範囲な利用用途に対応可能です。
高精度な位置情報で飛行が可能 Matrice210 RTK V2
最上位機種のMatrice210RTK V2は、Matrice210 V2の性能に加え、地上に「RTKの固定局」を設置することで、通常のGPSでは前後・高さ2m前後の誤差があると言われる位置情報データの誤差を、数cm単位におさえることができます。
誤差が少ないことにより、電線や樹木などの障害物による接触の回避や壁面付近で点検を行う必要がある場合も、より安全な飛行が可能となります。
また、障害物回避センサーが前方だけでなく上部・下部にも対応しており、橋梁の点検などでも安全に使用することが可能です。
3)Matrice600 (マトリス600)
価格 本体約55万+カメラ代
- 最大飛行時間:35分(ペイロードなし 公式HPより)
- 1眼レフカメラが使用可(ソニーα7指定の場合もあり)
- 測量用としては世界で一番売れているドローン
- 大型で基本的には車での自走配送のみ。郵送する場合1回あたりの送料が約5万必要
- バッテリーは1セット6本必要
1眼レフカメラが搭載可能なため、Inspire2やMatrice200シリーズ以上に豊富なカメラが選択可能になります。その分、機体のサイズが大きくなることから搬送方法が限られてしまうことがデメリットの一つです。
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上記機種を検討した結果、測量会社として主に”精度・安定性・安全性・持ち運びの利便性”を優先し、
Matrice200シリーズの中でも最上位機種のMatrice210RTK V2を購入することに決定しました。
測量用UAV(ドローン)としてMatrice210RTK V2を選んだ理由まとめ↓
- RTK固定局の設置により位置情報データの誤差を最小にできる(★測量に適している)
- 高高度カメラを選択することができる
- 防滴対応で雨風に強く、ある程度の強風時でも飛行が安定している
- 障害物回避センサーが充実しており、安全に運航できる
- コンパクトなケースに入れて持ち運びでき、利便性が良い
高高度対応可能なカメラ選択
機体の選定後、次に重要なのは、出来形測量の精度基準をクリアしながら高高度で撮影ができるカメラの選定です。
豊富な対応カメラとレンズの中から、出来形測量時の測定精度(飛行高度70m)をクリアできる組み合わせとして、ジンバルとカメラにはDJI製のZenmuse 5s、レンズにはOLYMPUS製のM.ZUIKO DIGITAL 25mmF1.8の組み合わせを選びました。
現場で運用してみた使用感
購入後、実際の土木現場で使用しました。
機体の安定性
上空では風速が強くなる傾向がありますが、一般的な仕様のPhantom4 Proと比べて、機体が大きく安定しており、離陸から着陸まで安心して操縦ができることを実感しました。
持ち運び時の利便性
産業用UAV(ドローン)の中ではコンパクトな機体の部類に入るため、持ち運びも容易です。キャリングケースに、本体からプロペラとスキッドを外して収納します。
アームやジンバルプレートを外す必要がないため、使用時も組み立てがスピーディーです。
取扱上の注意点
注意点としては、産業用UAV(ドローン)になるため、DJIサポートを受けることができません。
機体の初期設定を行う際に、詳しい方のサポートが必要になる場合があります。
また、機体が黒色ということで視認性は良いのですが、一方で直射日光の影響を受けやすく、夏場は随時クーラーの聞いた車内で冷やしながら飛行する等、温度管理に気を配る必要があります。(実際に夏場の現場で使用しましたが、何度か車内に持ち込み、機体の温度を下げて対応しました。)
余談ですが、UAV(ドローン)選定時、機体の色は、飛行時の背景色を考慮した選択が必要です。背景が明るい色(空・雲など)の場合は黒い機体の視認性は上がりますし、背景が暗色(森・崖など)の場合は白い機体の方が視認性があがります。
おわりに
建設会社様でUAV測量の実施まで想定している場合、精度クリアに必要な高高度飛行が可能で、安定性と安全性が高く、持ち運びにも優れているMatrice210 RTK V2はお勧めの機種です。
測量に必要な精度まで求めない飛行をされる場合であれば、Matrice200 V2やMatrice210 V2のモデルもお勧めの機種になります。
建設会社様や測量会社様が新たにUAV(ドローン)を選定するにあたって、当記事が少しでも参考になれば幸いです。