はじめに
平成から新元号「令和」となり新たな時代を迎えた2019年。
令和元年度初のi-Construction大賞受賞者が、2019年12月25日に国土交通省より発表されました。
今年も昨年同様、建設現場の革新的な取り組みを行った合計25団体が受賞しています。
昨年度までの受賞団体と比較すると、2019年度は受賞傾向に大きな違いがみられました。
建設ICT.com独自の目線で今回の発表内容を読み解いてみたいと思います。
目次
【おさらい】i-Construction大賞とは
i-Construction大賞は、
”建設現場の生産性向上を図る「i-Construction」に係る優れた取組を表彰し、ベストプラクティスとして広く紹介し、横展開することにより、i-Constructionに係る取組を推進すること”を目的として平成29年度(2017年度)に国土交通省より創設されました。
(国土交通省報道発表資料より)
令和元年、2019年度の今年は、i-Constructionの取組が発表された平成27年度(2015年)から数えて5年目、i-Construction対象が創設されてから3年目を迎える年になります。
令和元年度のi-Construction大賞
それでは早速、令和元年度のi-Construction大賞受賞団体を見ていきましょう。
■令和元年度 第3回表彰団体
<工事・業務部門>
NO | 表彰の種類 | 業者名 | 工事/業務名 | 発注地域等 |
---|---|---|---|---|
1 | 国土交通大臣賞 | 株式会社 豊蔵組 | H29・30能越道 長沢道路その7工事 | 北陸 |
2 | 優秀賞 | 東洋建設 株式会社 | 函館港若松地区岸壁ドルフィン部その他工事 | 北海道開発局 |
3 | 優秀賞 | 国道45号 夏井高架橋工事 三井住友・安部日鋼・日本ピーエス特定建設工事共同企業 | 国道45号 夏井高架橋工事 | 東北 |
4 | 優秀賞 | 沼田土建 株式会社 | 渋川西バイパス入沢他改良その1工事 | 関東 |
5 | 優秀賞 | 矢作建設工業 株式会社 | 平成28年度 名二環かの里1交差点南下部工事 | 中部 |
6 | 優秀賞 | 株式会社 オリエンタルコンサルタンツ | 名塩道路城山トンネル他詳細修正設計業務 | 近畿 |
7 | 優秀賞 | 石井建材 株式会社 | (砂)一二峠川砂防堰堤工事 | 兵庫県 |
8 | 優秀賞 | 高橋建設 株式会社 | 三隅・益田道路土田地区改良第2工事 | 中国 |
9 | 優秀賞 | 福留開発 株式会社 | 平成29−30年度 用石堤防漏水対策(その2)工事 | 四国 |
10 | 優秀賞 | 株式会社 白海 | 平成30年度大分港(西大分地区)泊地(−7.5m)浚渫工事 | 九州 |
11 | 優秀賞 | クモノスコーポレーション株式会社 | 寺内ダム洪水吐ひび割れ等変状調査業務 | 水資源機構 |
12 | 優秀賞 | 株式会社 鏡原組 | 平成29年度宮平地区改良(その2)工事 | 沖縄 |
<地方公共団体等の取組部門>
NO | 表彰の種類 | 取組団体名 | 取組名 | 地域 |
---|---|---|---|---|
13 | 国土交通大臣賞 | ふじのくにi-Construction推進支援協議会 | ICT普及促進と3次元データ活用の取組 | 中部 |
14 | 優秀賞 | ICT 東北推進協議会 | 産官連携による建設ICT総合研修拠点の形成 | 東北 |
15 | 優秀賞 | 茨城県 | 独自発注方式:チャレンジいばらきⅠ・Ⅱ型 | 関東 |
<i-Construction推進コンソーシアム会員の取組部門>
NO | 表彰の種類 | 業者名 | 取組名 | 本社所在地 |
---|---|---|---|---|
16 | 国土交通大臣賞 | 株式会社 昭和土木設計 | 地場コンサルからの全体最適化を目指した取り組み | 岩手県 |
17 | 国土交通大臣賞 | 株式会社 ランドログ | LANDLOG Parter制度を通じたベンチャー連携 | 東京都 |
18 | 優秀賞 | 株式会社 復建技術コンサルタント | 中小河川維持管理用ソフトウェア「e-River」の開発 | 宮城県 |
19 | 優秀賞 | 株式会社 Integral Geometry Science | インフラ構造物の非破壊検査に向けた世界最高性能-超広域レーダーの実現 | 兵庫県 |
20 | 優秀賞 | 株式会社 エアルームサポート | 舗装修繕工事におけるICT積極活用の取組 | 京都府 |
21 | 優秀賞 | 株式会社 竹中工務店 | EQハウスにおける外装パネル工事へのBIMデータ設計から施工まで一貫活用 | 大阪府 |
22 | 優秀賞 | 東急建設株式会社 | 東京メトロ銀座線渋谷駅移設工事における BIMデータ/CIMの実践 | 東京都 |
23 | 優秀賞 | Intellingent Style 株式会社 | 点群ブラウザ 3D PointStudio による道路地物の管理効率化 | 大阪府 |
24 | 優秀賞 | 株式会社 砂子組 | ICT活用における組織連携 | 北海道 |
25 | 優秀賞 | CONTACT (建設戦略会議) | 自治体への取り組み | 東京都 |
(国土交通省報道発表資料より)
平成30年度に追加された部門数(地方公共団体工事、i-Construction推進コンソーシアム会員の取組の2部門が追加)と受賞団体の合計数に変化はありませんでした。
しかし、その取組の概要には様々な特徴があり、昨年度とは明らかな変化が見られました。
その明らかな変化とは何なのか、後ほどご説明していきます。
【振り返り】平成のi-Construction大賞
ここで一度、平成のi-Construction大賞について振り返りたいと思います。
第1回の大賞受賞団体は国土交通省発注工事を対象に12団体、そのうち北海道開発局から、全国第1号のICT土工活用工事に取り組んだ「株式会社砂子組」と、中国地方整備局から、元請である自社と地元の関連企業とプロジェクトチームを設置して工事に取り組んだ「カナツ技研工業株式会社」の2団体が国土交通大臣賞を受賞しました。
第2回は、地方公共団体等の発注工事や、i-Construction推進コンソーシアム会員の取組などに対象が拡大され、3つの部門で合計25団体が大賞を受賞し、その内3団体が国土交通大臣賞を受賞しました。
■平成30年度(2018年度)の対象部門と受賞団体
対象部門 | 受賞団体数 |
---|---|
国土交通省発注工事/業務 | 14団体 |
地方公共団体等の発注工事/業務 | 6団体 |
i-Construction推進コンソーシアム会員の取組 | 5団体 |
合計 | 25団体 |
■平成30年度(2018年度)の国土交通大臣賞受賞団体とその取組概要
対象部門 | 団体名 | 地方整備局・地域 | 取組概要 |
---|---|---|---|
国土交通省発注工事/業務 | 株式会社加藤組 | 中国 | 全国初の3Dガイダンスミニショベルを構築し、極小規模の歩道工事でICT土工を活用 |
地方公共団体等の発注工事/業務 | 田中産業株式会社 | 新潟県 | 法面整形で使用したICTバックホウを、盛土材巻き出しの高さ管理に活用し、ブルドーザの敷き均し作業の効率化を図り工期短縮 |
i-Construction推進コンソーシアム会員の取組 | 株式会社政工務店 | 佐賀県 | 受注形態を問わないICT建機の積極利用、3次元測量業務を取り入れることでi-Constructionを自社解決できる技術の蓄積と継承を推進 |
国土交通省 i-Construction大賞受賞取組資料より抜粋
平成と令和のi-Construction大賞を比較
それでは、平成と令和の大賞受賞内容を比較しながら、その変化を見ていきましょう。
ポイント① 評価項目別の受賞団体数の変化
大賞受賞団体数は、平成30年度も令和元年度も共に25団体と変わりありません。
ところが、部門構成と評価項目を次のように分類すると、構成されている団体比率にとある変化が見られます。
分類項目 | 平成30年度 | 令和元年度 |
---|---|---|
工事・業務 (直轄・地方公共団体等) |
20団体 | 12団体 |
取組 (地公体等、i-Construction推進コンソーシアム会員 |
5団体 | 13団体 |
合計 | 25団体 | 25団体 |
上記からわかることは、評価対象の変化です。
平成30年度の受賞団体数の8割は、【工事・業務】に対する評価により受賞した団体でした。
令和元年度の受賞団体では、【工事・業務】と【取組】の受賞団体の割合が二分する結果になっています。
これは、ICT活用工事の発注数が増えていく中で、それを遂行していくためには、従来とは違った仕組み化と環境整備が重要であること、
また実際にもそれが求められていることから、表彰された団体のようなi-Constructionを実行していくための取組に尽力する団体が増えているということが言えるのではないでしょうか。
i-Constructionの推進から、深化、そして貫徹へと確実に向かっていることの象徴だと考えます。
国土交通省 報道発表添付資料「別紙2-2受賞取組概要(地方公共団体の取組部門)」より抜粋
国土交通省 報道発表添付資料「別紙2-3受賞取組概要(i-Construction推進コンソーシアム会員の取組部門)」より抜粋
ポイント② 工事・業務部門における取組内容の変化
上述したように、令和元年度の【工事・業務】部門の大賞受賞者は、全体の約5割の12団体でした。
団体数としては減少していますが、その中身を見てみると、適用工種の拡大や最新技術の導入等から、より複雑かつ難易度の高い工事へのICT活用実績が評価されているように見受けられます。
ICT施工の完全内製化、女性や若手人材の育成を目的として、i-Constructionの取組を基軸にした社内体制構築を積極的に行う団体や、既設構造物が密集する工事にCIMモデルを活用することで、安全かつ生産性の高い施工を実施した団体など、こちらもi-Consturctionの深化状況が感じられます。
国土交通省 報道発表添付資料「別紙2-1 受賞取組概要(工事/業務部門)」より抜粋
【まとめ】令和時代のi-Constructionの取組に必要なこと
令和元年度のi-Construction大賞の発表内容を通じ、
国交省が今年度掲げている”生産性革命「貫徹」”を目指して、
ICT施工そのものだけではなく、ICT施工の水平展開を目指した新しい仕組みや取組を評価し、推進していることが読み取れます。
ICT施工を従来施工と同じように、<”普通”にすべての建設会社が実施できる>という段階を
仮に国土交通省が目指しているとすれば、
施工に関わるすべての人の”ICT活用の理解”と”スキルの習得”、”ICT建機等のハード面の整備”が避けては通れません。
どのように知識・スキル習得の機会を設け、広めていくか、
どのようにICT建機やドローン等のハード面を整備していくか、
それらの課題を解決するための官・民の垣根を越えた新しい取り組みが”令和時代”の建設業界に求められているのではないでしょうか。
次回、令和2年度のi-Construction大賞発表時には、新たな改革の芽や仕組みを取り入れた、業界を力強く支える団体が次々と現れることを期待しますし、
当メディア【建設ICT.com】も、ICT施工導入を支援する立場として、その一翼を担えるよう2020年も邁進してまいります。