2025年までに建設現場の生産性2割向上を目指して始まったi-Constructionの取り組み。
しかし、わたしたちはいつもこの疑問にぶち当たるのだ。
- 「2割向上させる」という生産性の具体的な指標はあるのか?または何なのか?
- 生産性が向上されると企業はどういう状態になるのか?
これらの問いに対し、数多ある情報と実情を照らし合わせても、明確な答えを持っている企業は少ないだろう。また、生産性向上を自分事として捉えて取り組んでいる方も、そう多くはないのが現状ではないだろうか。
今回のコラムでは、数多くのICT活用工事の現場を見てきた建設ICT.comが建設現場の真の生産性向上とはなにかについて切り込んでみたい。
目次
作業時間の削減は利益化に直結するのか?
ICT導入による現場の生産性を図る指標とはなにか?
例えば「付加価値生産性」など、生産性を表す指標はいくつかあるが、本コラムでは小難しい言葉は抜きにして、建設会社目線でもっとシンプルに考えてみたい。
参考
当社は、建設現場の生産性向上に取り組むクライアントと共に、2022年に日経コンストラクション(日経BP)の取材を受けている。生産性向上の指標についてはそちらを参考されたい。
「生産性向上」の指標として最もイメージしやすいのは「工期短縮」と「省力化(人工削減)」ではないだろうか。
ICT活用工事関連の国土交通省資料でよく見るこちらの資料。ICT施工の延べ作業時間の縮減効果を工種ごとに表したものである。
この資料によると、ICT土工、舗装工、浚渫工(河川)で約3割、ICT浚渫工では約1割の作業時間の縮減効果が見られたという。これは確かに「生産性向上」と言えるだろう。
しかし、ここで一つ考えてみたいのが「利益」である。
後述するが、当然のことながら企業は利益を出す体質を中長期的に継続しなければ存続は危うい。存続できない体制はサステイナブル(持続継続可能)ではない。
いくら作業時間の縮減効果を得ても、利益が残らなければ意味がないのだ。
仮に上記資料のような縮減効果を得たとして、これが「利益化に直結している」と言える現場が一体どれくらいあるだろうか?
現場の原価管理は複雑であり、作業時間の縮減=コスト削減という単純な解釈は難しい。もちろん作業時間の縮減がコスト削減に直結するケースもあるだろう。しかし現場とは複雑で千差万別なものである。
つまり、「ICTによる作業時間の縮減効果=利益化=持続継続できる体制」という単純な図式で考えないほうが良い。
建設事業者には、その上でどうするか?が求められている。
建設生産プロセスにおけるICT技術活用の目的とは
ここでもう一度ICT技術活用の目的を明確にしておこう。
建設生産プロセスにおけるICT技術活用の目的の一つは、深刻な労働力不足に対する課題解決である。
人手不足が続けば、受注できる工事が減り、経営状況が悪化し企業の存続ができなくなる。
建設業における倒産件数がここ数年で急増しているのはご存じの通りだろう。
我が国のインフラ整備を支える建設会社の減少は、我々の生活にも大きな影響を与える課題である。
これは喫緊の課題であり、それを解決するためにi-Constructionの取り組みが推進されていることは今一度頭に入れておく必要がある。
企業存続のためには建設現場の利益化が必要
深刻な労働力不足の1つの答えとしてICT技術の活用が推進されているわけだが、そうは言っても、事業者にとってICT技術の導入はそう簡単にホイホイと進められるものではないのも現状だ。
なぜなら、ICT導入には設備投資や人材育成などの初期コストがかかること、そしてそのコストを回収する時期や算段が見えづらいからだ。
経営者として回収できるかわからないものに投資できないのは当然のことだろう。ましてや、前述の通り、「作業時間の縮減=利益」という単純な図式が成り立たないとなると、なおさらだ。
ICT導入に投資は必要だ。これは避けて通れない。しかし、投資は回収して元手を増やしてこその投資だ。
ここでわたしたちが提案したいのが、「現場単位で利益を残すこと」だ。
ICT導入では、まず現場単位の利益化を意識すること。つまり、生産性向上の指標を「作業時間の縮減」ではなく、「利益を残すこと」に頭をシフトするのだ。
利益化を中心に設計すれば、ICT導入の本来の意義を見失うことなくその効果を最大限に享受する体制に近づけることができる。
(その体制に至るまでに、綿密な計画やプロセスが必要であることは間違いないが、ここでは省略する。)
逆を言えば、ICT工事が標準化されようとする今、この環境下で利益を出せる体制にしておかなければ、これから先にやってくる新しい変化に対応できなくなることは想像に難くない。
経営状態が悪いままでは企業は存続できない。企業にとって持続継続性が最も重要な命題だ。
そのためには、ICT導入においても現場単位の利益を追求していくことが最優先であると考える。
なぜ建設会社は内製化をしようとするのか
ここからは実際に現場単位の利益化を目指すために必要ないくつかの検討事項について話していこう。
現場単位の利益化を目指す時に必ず出てくるのが「内製化」の検討だ。
ICT活用工事の積算要領を見ると、工種ごとに多少の違いはあるが、3次元起工測量、3次元設計データの作成費用やICT機械経費など、ICT経費として加算できるものがある。
これは、あくまでも従来施工ではかからない経費の補填であって、ここで大きな利益を見込むことはできない。
なぜなら、特に取り組み初期段階のICT活用工事では、測量や設計作業は外注、ICT建機はレンタルに頼る比重が大きくなり、その分外注費が増すからだ。
だからといって、材料費や人件費の過度な削減は品質や安全管理上現実的ではない。もちろん下請けたたきなどはもってのほかである。
外注頼みの状態のままでは、残せる利益が増える見込みは小さい。それゆえに、建設会社が少しでも内製化を検討できないかと考えるのは当然のことである。
ICTの内製化には投資が必要
では、ICTの内製化を実現するためには何が必要だろうか。
外注せずに自社で3次元測量や3次元設計データの作成を行う「内製化」を進めるためには、ドローンや地上レーザースキャナーといった3次元測量機器、3次元設計ソフトなどが必要だ。
加えて、それらを使いこなせる人材を育成しなければならないため、内製化には経営者の投資判断が伴うケースが多い。
投資にあたり、国や自治体が整備している補助金や助成金を活用できるのはありがたいことだ。これらを上手に活用することもICT導入の鍵と言える。
【保存版】建設ICT化に利用できる「助成金・補助金・税制優遇」の特徴と違いを徹底解説!
ICT建機を所有している場合には、レンタルと比べると利益が残しやすくなる。投資回収のタイミングによっては利益確保の算段がつきやすい。
ところが前述の通り、これらの投資には企業規模や地域性など、戦略的な判断な求められるため、経営者が導入に慎重になりすぎてしまうのも事実である。
ICT施工経営者講習会アンケートからみる真の課題と投資タイミングの見極め
あえて外注するという選択肢もある
経営者の投資判断に加え、ICT専門部署や専任者を設置できる会社は内製化が進みやすい。
しかし、そこまで人員を割けない場合は、どうすればいいのだろうか。
先に、”外注頼みの状態のままでは、残せる利益が増える見込みは小さい”とお伝えしたが、外注がすべてNGというわけではない。
精度が高い効率的な作業が可能なのであれば、むしろ外注という選択肢はあるべきだとわたしたちは考えている。
ただし、これは依頼主が作業内容を完全に理解していることと、外注先のクオリティが高いことが前提の話である。
ここまで、現場単位の利益化を目指すためには?という話をしてきたが、いったんまとめると、以下の通りである。
- 作業時間の縮減が企業の利益化に直結するとは単純に言えない
- ICT化においては現場単位の利益化を目標とすべき。それが企業の利益=持続継続できる体制につながる
- ICT施工で少しでも利益を多く残すためにはできる限りの内製化を検討する必要がある
- 内製化には、最初に設備導入や人材育成にある程度の初期投資が求められる
- 企業特徴や地域性などによっては、外注も選択肢に入れておく
- 外注する場合は、作業内容の把握と外注先のクオリティが高い事が前提
ICT活用工事の積算条件は変わらないのか
ここで、ICT活用工事の積算について、国土交通省から発表されている2つの資料をご紹介したい。
資料1: 3次元起工測量及び3次元設計データ作成費用見積もり参考資料の改定
これは、現在原則見積徴収による積上げとされている3次元測量と3次元設計データ作成について、見積の妥当性を判断するための算定式を改定したというものだ。
資料2: ICT施工における積算基準の当面の運用
これは、共通仮設費率と現場管理費率に補正係数を乗じて計上している3次元出来形管理と3次元データ納品等に要する経費を、より実態に即した積算となるよう見積金額と比較するというものだ。
今さらだが改めて説明しておくと、ICT施工にかかる3次元測量や3次元設計データ作成といった費用は、原則見積もり徴収による積み上げで予算計上することができた。つまり、これまでICT施工にかかる経費は一部みてもらえたのだ。
しかし、今年R5年度に上記資料が発表された。この資料では、見積金額の妥当性をより精査していくという方向性が示された。
これらの運用をどうとらえるべきなのか。
ICT活用工事が始まった2016年度から7年目を迎え、ICT施工が標準化される流れの中、積算条件が変わらないわけではない(=いつまでもICT経費はみてもらえない)と考える方が自然ではないだろうか。
つまり、ゆくゆくはICT経費を計上できないことも想定して今から現場単位で利益を残すためのICT技術と知見を蓄えておかなければ、更に利益化が厳しくなることは想像に難くない。
まとめ
このような現状を踏まえ、どう考え行動すべきか。
生産性向上の指標は、作業時間の2割削減だと言われている。
しかし、2割削減は結果であって、そのプロセスにおいて企業が最も優先すべきは現場の利益化そして企業の持続継続性であるとわたしたちは考える。
そもそも生産性を向上させる目的で取り組むICTが、設備投資や人材教育コストで企業利益をひっ迫するとしたら、これは本末転倒になってしまう。
原価管理が複雑化し、どんぶり勘定では利益が残しづらいICT活用工事。
ICT技術導入による現場の見える化はもちろんのこと、組織全体の見える化も必要だ。
DXやICT技術の導入により、それは実現しやすくなってきたと言える。
そのようなツールを活用し、現状分析と明確なゴール設定、そのゴールに向かうための適切なプロセスを歩めている会社は生産性が高いと言ってもいいだろう。
しかし、自力でそれを実現するのは難易度が高い。
そこで、経営コンサルティング会社である当社は「第三者の目線=コンサルティング」の活用をおすすめしている。
なぜなら、それが当社の考える真の生産性向上への一番の近道であるからだ。
わたしたちは経営コンサルティング会社として常々発信していることがある。
経営の現場、工事の現場で日々奮闘・苦労されている事業者のみなさまへ
どうすればICT導入がうまくいくのか。そして導入〜推進〜発展がうまくいくのか。
残念ながら決まった答えはない。企業によって多種多様なのだ。
今回のコラムで一つヒントを示した。それは現場単位の利益化を生産性向上の指標とすること。
真のICT化とは、効率化ではない。
真のICT化とは、ICTを活用して企業の持続継続性を高めることだ。これをわたしたちは声を大にして言いたい。
現場単位の利益化を最終目標に設定して計画的に導入・推進すれば、途中のプロセスで紆余曲折あれども、ICT活用の意義を見失うことなくその効果を最大限に享受できる体制になるだろう。
そのためにわたしたちはこれからも情報を発信し、現場でサポートを続けたいと思う。