森下建設株式会社
森下 幸生さん

「新しいことに挑戦する」3代目の経営ビジョンと最先端技術への挑戦

森下建設株式会社 代表取締役社長

森下 幸生 さん

インタビュー

インタビュアー 建設ICT.comスタッフ

ICT工事に取り組む経営者の方や、現場を担当する現場監督さんに向けたセミナーや研修を主に担当しています。社内ICT化のスピードと精度アップに向けた現状の課題抽出と具体的な実施項目をわかりやすくお伝えすることができます。DX・ICTに強い人材の育成はお任せください。

「新しいことに挑戦する」3代目の経営ビジョンと最先端技術への挑戦

森下建設株式会社 代表取締役社長

森下 幸生 さん

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ICT工事に取り組む経営者の方や、現場を担当する現場監督さんに向けたセミナーや研修を主に担当しています。社内ICT化のスピードと精度アップに向けた現状の課題抽出と具体的な実施項目をわかりやすくお伝えすることができます。DX・ICTに強い人材の育成はお任せください。

消えかかった土木事業部。先進的な考えを持つ人々の存在がICT導入へのきっかけとなった。

― 島根県で最初のICT活用工事に取り組まれ、今では15現場以上のICT活用工事実績を誇る森下建設さんですが、ICTを会社に導入することになったきっかけは何だったのでしょうか?

実のところ弊社は先代のころから土木事業にはあまり積極的ではなかったんです。

森下建設のある江津市周辺の地域は、地域性的に計画だって行われる公共の土木工事が少ないとされていました。加えて弊社はもともと建築からスタートした会社でもあるため、営業含めて建築事業のほうが得意としていたんです。そのため、土木事業は災害復旧事業のみにしぼり、建築事業を伸ばすべきだと考えていました。

しかし事業承継を受けて、経営の戦略的な話を始めたときに、以前からご縁のあったコンサルティング会社さんから「これからは土木事業を伸ばしていく必要がある」という話をいただいたんです。

その話をきっかけに3代目森下建設社長として掲げた「新しいことに挑戦する」という経営ビジョン通り、新しいところに目を向けることにしたんです。それがICTの導入でした。その時期は国がICT活用工事を推奨し始めたころでもあったので、タイミングもちょうど良かったんですよね。

当時の弊社の事業割合は建築事業7割、土木事業3割で、土木事業部はもはや存続の危機に瀕していました。将来の会社のために必要なものは何かを考えた結果、ここでやっておかないとただ時間を無駄にしてしまうというリスクにつながると考えたんです。

― なるほど。しかし、新しい技術の導入はどんな会社でも難しい部分が多いですよね。ましてや存続の危機に立たされていた部署であればなかなか踏み出しにくい提案だと思いますが、どうしてICTの導入を実現できたのでしょうか?

「A1市街地グランプリ」の開催が一つの要因だと思います。

このレースイベントは「技術革新」や「先端技術の活用」をコンセプトとして掲げていました。
そのためレース開催の準備段階で3次元測量に挑戦する話が上がったんです。タイミングよく松江高専(島根県にある土木の専門学校)の先生ともご縁があり、「学校として3次元ドローン測量をはじめようとしている」という話をいただいたので、協力して挑戦することになりました。

そしてその3次元測量の時に、弊社の副社長や土木部の部長もレース開催の準備に少し携わることになったんです。その時の経験が、会社としてICTを導入する時の一歩を後押ししたんだと思います。

それから何といっても土木部の部長の存在ですね。ICTがどんな技術であるかをお話しした際、土木部長がすぐに「やりたい」と声を上げてくれたんです。

現場たたき上げで管理職まで上り詰めた現場のプロフェッショナルなんですが、現場経験が多い故に、以前からもっと効率的に作業を進められるツールを欲していたようで、「建築でいう3Dパースのようなものが土木にもあれば、逆算でもっと作業の効率化が図れるのではないか」というイメージが本人の中にあったみたいで、実際に紙で模型を作成したりしてアナログで3D化を実践したりもしていました。

他の会社の方に話を伺うとそういった先進的な考えを持った人がいないとなかなかICTの導入は難しいと聞きますから、土木部長の存在は本当に大きかったと思います。

※地域貢献を目的とし、森下社長とコンサルティング会社SGMが中心となって開催された日本初の市街地レース。

島根県江津市で開催された 日本初のA1市街地グランプリ
UAVを使った3次元測量データをもとに作られたコース

現場と座学のダブルサポートで全社員がつながる。同じ方向を向く。

― ベテランの方が積極的な姿勢を示してくれると導入しやすいですね。では森下建設の社員さんはICTに対しては比較的初めから積極的な姿勢をお持ちだったんですね。

いえ。市街地レースの経験で素地が生まれていたため聞き入れやすい状況ではあったと思いますが、元来の弊社の土木部は先端技術に特別積極的だったわけではありません。
たまたま先進的な考えをもった部長が同意してくれましたが、他の社員がついていけないという状況になることは懸念していました。

加えて島根県は東部なら新しいことに取り組みやすかったかもしれませんが、弊社がある西部は田舎なので行政もICTに明るかったわけではないと思いますし、進め方は難しかったですね。

― そうだったんですか?ではどのようにICTの導入を進められたのでしょうか?

建設現場はどうしてもその現場に携わっている人だけがわかる世界観みたいなのがあるんです。実際に現場に携わってない人にはその現場で何が起きているのかわからない、伝わらないということが業界的にどうしても起こりがちなので、ICTの導入を進めることと同時に教育面を厚くしていくことにしました。

そこでコンサル会社に委託して、「ICTとは何なのか」ということを現場での実践と全体の座学セミナーの2つの方法でレクチャーしてもらったんです。
まず、当時管理させてもらっていた工事現場にICT建機をレンタルして現場作業を実践しつつ、ドローンを飛ばしてもらって3次元測量を行い、ICT活用工事の現場を社員たちに体感してもらいました。

そして同時並行でその現場にかかわっていない社員も含めた全員に、その現場の実務をうまく反映させた座学研修を実施することで、現場に携わったメンバーだけでなく他のメンバーもついていけるようにしたんです。

その結果、全社員がICTの基礎知識を身に着けることができたほか、現場経験を持つ社員やICT知識の豊富な部長もいるため、何かあったときすぐにフォローできる環境を作ることができました。
はじめてICT活用工事を任されたとしても、身を任せてやっていくだけで新しいことを身に着ける喜びを仕事の中で感じられる。そんな環境が用意できてよかったと思いますね。

― 今の森下建設の皆さんはICT活用工事の話になると「自分ならどうするか」を常に考えていらっしゃる印象を受けるので、その知識量の多さにいつも感動するんですが、その背景には社員全員が安心して挑戦できるように教育を重視した社長の環境づくりの工夫があったわけですね。土木部はもともと存続の危機に瀕していたとのことでしたが、教育を重視してICTを導入したことで、会社にはどんな変化があったのでしょうか?

単純に土木事業の仕事が増加しましたね。元受け案件も下請け案件も増加したので、今では建築部5割、土木部5割くらいになっています。ICT活用工事の経験をもつ社員もこの5年間で管理では5名、現場ではICT建機の操縦を中心に10名くらいに増えましたね。

それから社内の情報共有がしやすくなりました。
土木部長もそうですがベテランの現場監督は最初に工事図面を見た時点ですぐに頭の中で図面を3次元化して組み立てているところがあるみたいなんです。今まではその頭の中にある情報を本人が工夫して伝えなくてはなりませんでしたが、ICT化で3次元データを活用することによってそういったベテラン現場監督が持つノウハウや情報が可視化でき、伝えやすくなりました。

また、弊社で行っている工程会議はICTのデータの見方やICT建機を動かすときのポイント等を、実際に経験している人から共有する場ともなっています。通常の工程会議だと各々担当している現場以外は外部認識になりますが、ICTは今や全社員の共通テーマなので良い話題になっているようです。

そうやって社内でのコミュニケーションが増えたことで、担当外の現場が大変な時に「自分たち今空いてるんで応援行きます」といって助け合う場面も増えたように思います。

― 土木部の社員さんのうち半数以上がICT活用工事を経験されているんですか!?本当に先進的ですね。それにICTが仕事の効率化だけでなく社内のコミュニケーションでも役に立っているんですね。

ICTは現場を可視化するものですから、今まで見えていなかったものが見えるようになったんです。
弊社の土木部は昔から副社長を中心として「まずは現場を知らないと管理はできない」という姿勢を貫いてきました。

そのためまずは現場作業から始めて、だんだんとステップアップさせていく方針で、現場を知らないうちは管理はもちろん建機にも乗せてもらえないため、人材が長続きしにくい会社だったと思います。
ですが、ICTを導入したことで、現場を知りやすくなりました。ですからこれから弊社に入社される方は、人によって違う価値観や得意分野があるでしょうから興味のある分野から入ってもらってもいいとも思っています。

そうやって社内でのコミュニケーションが増えたことで、担当外の現場が大変な時に「自分たち今空いてるんで応援行きます」といって助け合う場面も増えたように思います。

ですがそれと同時に現場経験を大事にすることで今まで培ってきた土木部の高い技術力が浮き彫りになりましたよね。
今までやってきた現場経験重視の教育方針の強みというのはICTの導入を通して対外的にもさらに弊社のPRにつながったと思います。

会議室
本山社員(ICT見学会:現場代理人として説明)

いずれICT化するなら、すべての工事をICTで進める。

― 今後のICTについて、森下社長は会社でICT導入を始めた際、ICTのノウハウを自分たちだけにとどめず、周辺の他社さんへも合同研修会の呼びかけをされていましたよね。ICTや地域の未来を考えての行動だったと思いますが、実際に合同研修会をやってみて何か変化はありましたか?

もともと繋がりがなかったわけではありませんが、ICTを起点として地域ともより良い関係が築けました。一緒に地域全体で盛り上げていきましょうという声掛けに、実際に参加された方もいらっしゃいますし、興味も持っていただけたと思います。

また、その時のご縁を通してその会社さんが受けられた仕事に私たちがICT施工という形で携わることにも繋がりましたし、これまでの土木業界と地域の姿勢が変わりつつあるんじゃないかと思います。
建設会社って表面上は仲良くしていてもライバルですし、実はそんなに仲良くないってことがよくあるんですけど(笑)

でもICTに関しては全くの新しい技術なので、どっちがどうという話にならないんですよね。あくまで新しい技術知識として「自分たちはここまでできて、他社さんならここまでできます。」というお互いのプラスの部分の話をしやすくなりましたね。

― 「まだICTに触れたことはない。でもチャレンジしていきたい。」そんな方々がたくさんいらっしゃると思います。そんな方々に向けて、社長が考える森下建設の今後のビジョンを教えてください。

現在弊社にいる社員はある程度知識のベースができていると思います。
ですから今後は同じ現場に携わる他の会社さんの「挑戦したい」という気持ちを我々が出していければいいんじゃないかと思います。
ICTって本当に楽しいんです。「新しいことを学ぶ」ということ自体に人間は魅力を感じると思うんですが、ICTがそれを感じる機会になるということを発信していければいいですね。

もちろん弊社もたゆまない研鑽と挑戦を続けていこうという心構えです。
現状で満足せず、自分たちの課題を現場から抽出して、改善していくことを繰り返していきます。

ICTは国が戦略を立てて旗を掲げていることですから、それに向き合っていくことは当然ですし、いずれ全国がICT化していくならあえて流れに逆らうことはせず、弊社もICT発注有無に問わらず基本的にすべての工事をICTでやっていきたいと考えています。

今年は国交省の元受けにもチャレンジしていきますし、少し大げさな言い方ですが、私たちは国から任命を受けて、人々の生活を守っているという認識を少なからず持っています。そういった弊社の地元愛やチャレンジ精神を大事にしていきたいですね。

- ありがとうございました。

取材日: 2021-04-14

企業情報

社名 森下建設株式会社
事業内容 土木事業、建築事業、住宅事業、解体事業、不動産事業、江津市委託事業
コーポレートサイト https://morishita-co.jp
代表者 代表取締役 森下幸生
設立 昭和21年1月
従業員数 51名(2024年3月現在)
本社所在地 〒699-4221 島根県江津市桜江町市山543番地16 TEL(0855)92-1360 FAX(0855)92-0182
営業所 東京営業所 〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町18-4 二宮ビル5F 江津営業所 〒695-0021 島根県江津市都野津町2342-3 浜田営業所 〒697-0015 島根県浜田市竹迫町2731-25 川本営業所 〒696-0004 島根県邑智郡川本町川下1267-3
資本金 20,000,000円
株式公開 非上場

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