2026年7月24日に開催された建設通信新聞主催「第25回BIM/CIM LIVEセミナー」で、国土交通省 大臣官房参事官の齋藤様から、BIM/CIMの現状認識と今後の方針が説明されました。当サイトのDX・i-Constructionスペシャリストが受講した内容と公開資料をもとに、要点を整理します。
結論から言えば、国交省のメッセージは明確です。
BIM/CIMの本質は「3次元モデルを作ること」ではなく、「調査・設計・施工・維持管理のプロセスをデータでつなぐこと」
この原点に立ち返り、今後は3次元モデルの作成作業をAI等で半自動化しつつ、設計成果をファイル単位ではなくデータ本位の「情報モデル」へ変革していく方針が示されました。
現場で最も不満の大きい「2次元図面と3次元データの二重作業」の解消に本腰を入れる姿勢が打ち出された点は、施工会社にとって注目すべき変化です。
目次
セミナー概要
名称:BIM/CIMライブセミナー(オンライン開催)
開催日:2026年7月24日
講演:国土交通省 大臣官房 参事官(イノベーション)グループ 齋藤正徳氏
講演テーマ:「技術者とAI協働による建設生産管理プロセスのデータ連携を目指して」
1. 国交省が改めて確認した「BIM/CIMの目的」
セミナーではまず、国交省として改めてBIM/CIMの目的を振り返った、という説明がありました。
BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)とは、建設事業で取り扱う情報をデジタルデータとして統合管理し、調査・測量・設計・施工・維持管理の各段階に携わる受発注者のデータ活用・共有を容易にする取り組みです。
3次元モデルはあくまで情報共有の「手段」であり、目的は建設生産・管理システム全体の効率化にあります。
担当者からは、議論のきっかけとして「設計段階で作成した3次元設計データを、いかに施工段階で使ってもらえるか。それが現状できていない」という率直な課題認識が語られました。
i-Construction 2.0が掲げる2040年までの省人化3割の実現には、設計データのデジタル化とデータ連携が根幹であり、ここが整えばAI活用も含めて一気に進む、という位置づけです。
2. 現場の実感:効果は出ているが「二重作業」が最大の壁
受注者アンケート(第15回BIM/CIM推進委員会資料、令和8年3月)では、効果と課題がはっきり分かれています。
効果として最も多かった回答
工事・業務ともに「3Dでの可視化によるコミュニケーションや理解度の改善」(工事:988件/N=1,132、業務:578件/N=630)でした。
担当者の説明では、積算、ICT建機とのデータ連携、監督検査等においても一定以上の省人化効果(2〜3割程度)があるとの認識が示されています。
課題として最も多かった回答
これも工事・業務ともに「CAD等の業務と二重作業になり、作業時間・手間が増加した」(工事:465件/N=1,132、業務:475件/N=630)です。具体的には次のような声が挙げられていました。
- 2次元図面と3次元データの作成による二重作業が発生している
- 習熟の手間やソフト導入費用に対して、得られるメリットが見合っていない
- 3次元モデル(IFC:ソフト間でモデルを受け渡すための標準ファイル形式)は再編集が難しく、施工段階での再作成が必要になっている
- 施工の高度化に必要な属性情報等の連携が不十分
ICT施工に取り組む読者の皆さまにとっても、実感に近い内容ではないでしょうか。
3. 今後の方針:モデル「作成」から、データ「活用・連携」へ
こうした課題を踏まえ、令和5年度の原則適用以降の方針として、干渉チェック・数量算出・出来形ヒートマップなど効果が出ている取り組みは継続しつつ、自治体や中小企業にも同様の取り組みを広げていく方向が示されました。あわせて、次の5つの取り組みが並行して進められます。
(1)AIを活用したモデル作成の半自動化と「情報モデル」への転換
データ作成はAI等で半自動化し、今後は作成作業よりも「データ活用・連携」に注力する方針です。今後3〜4年をかけてデータ連携を進め、3次元モデルを「発注図書」に置き換えるためのルール整備を行うとしています。
注目すべきはスケジュール感です。
当初は2027年度から発注図書の3次元データ化を開始する予定でしたが、ルール整備にもう少し時間を要するとの説明がありました。
現在は、設計条件・規格・地形地質情報・構造物形状・仕様・設計施工履歴・引継事項などをデータ本位で束ねる「情報モデル」(データに関するルール)の整備を検討している段階です。公開されたロードマップ(案)では、情報モデルを契約図書とするガイドライン作成を経て、活用試行、2028年度以降の本格導入という流れが示されています。
(2)BIM/CIM積算:今年度から「土工」が追加
3次元モデルのデータ連携により数量集計データ作成の人的作業をなくし、人為的ミスの削減を目指すBIM/CIM積算は、令和6年度試行の構造物(橋脚・橋台・カルバート・擁壁)、令和7年度の砂防堰堤に続き、令和8年度から土工(盛土・掘削・法面工)が試行に追加されます。
土工のデータ連携には、J-LandXML(道路中心線形や横断形状等を扱う国内標準のデータ形式。LandXMLと異なり再編集が可能)を活用する方針が示されました。土工中心のICT活用工事に取り組む会社にとっては、3次元設計データがそのまま積算まで流れる将来像に直結する動きです。
(3)汎用構造物の標準データ(オブジェクトライブラリ)の公開
砂防堰堤やカルバート等、汎用的な構造物のBIM/CIM標準データを国交省HP上のライブラリとして整備し、Web上で公開していく予定です。IFC形式等でのダウンロードや、既存ライブラリ(「i-部品Get」等)との連携も予定されており、3次元モデル作成の負担軽減につながる取り組みです。
(4)新たな「3次元データ共有システム」の整備
従来のDXデータセンターに代わり、ガバメントクラウド上にクラウド形式の3次元データ共有システムを構築中で、早ければ今年度中の公開(試行運用)が予定されています。受発注者がブラウザ上で3次元モデル・点群データ等を閲覧・共有でき、注釈付与や計測も可能。IFC、J-LandXML、LAS等の主要形式に対応し、アップロードしたデータは一定期間後(約1週間)に自動削除される仕様とのことでした。
発注者との3次元データのやり取りに専用ソフトが不要になる環境は、中小の施工会社にとって導入ハードルを大きく下げる可能性があります。
(5)パラメトリック設計・維持管理の高度化(重点研究)
構造計算と3次元モデル作成を中間ファイルでつなぐ「パラメトリック設計標準」の研究公募が行われており、将来的には3次元形状を再現可能なパラメータデータの標準化により、2次元図面の作成そのものを省略することが狙いとされています。維持管理分野でも、点群と画像を統合利用するマルチモーダルAIによる道路地物の分類・台帳作成の効率化などが進められます。
4. 施工会社は何を準備すべきか
セミナー全体を通じて、国交省が「二重作業の解消」と「データが上流から下流へスムーズに流れる環境構築」に本腰を入れる姿勢が明確に示されました。施工会社の実務目線では、次の3点を押さえておくとよいと考えます。
- 土工のデータ連携はJ-LandXMLが軸になる:ICT土工に取り組んでいる会社は、3次元設計データの受け取り・活用体制を今のうちに整えておくことが、BIM/CIM積算の本格化への備えになります。
- 「モデルを一から作る」スキルより「データを活用する」体制:標準ライブラリやAIによる半自動化が進む前提では、社内で重視すべきは属性情報の扱いやデータ連携の運用ノウハウに移っていきます。
- 自治体発注・中小企業への拡大は追い風:直轄工事だけの話ではなくなっていきます。今後の要領・基準類の改定情報を継続的に押さえておくことが重要です。
なお、発注図書の3次元化や情報モデルの契約図書化はまだルール整備の途上であり、示されたロードマップも「案」の段階です。確定情報については、今後の国交省の公表資料を確認する必要があります。
まとめ
- BIM/CIMの目的は「3次元モデル作成」ではなく「プロセス全体のデータ連携」——国交省が原点を再確認
- 現場最大の課題「二重作業」の解消に向け、AIによる半自動化と「情報モデル」への転換を推進
- 令和8年度からBIM/CIM積算に土工が追加。土工のデータ連携はJ-LandXMLが軸
- 標準オブジェクトライブラリ、3次元データ共有システムなど、導入負担を下げる基盤整備が進行中
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