はじめに
2020年9月20日(日)、日本モータスポーツ界の歴史に節目として刻まれたであろう「ネットの窓口A1市街地グランプリGOTSU2020」が無事に開催されました。
数多くのメディアで取り上げられ、SNS上の反応を見ても、これが歴史的快挙であったことは疑う余地がありません。
わたしたちはテクニカルパートナーとして、この大会の準備段階から技術的なサポートを行っていました。サポート経緯を紹介したコラムはこちらです。
日本初公道レースのコース安全検証にICT土木技術を活用(3次元測量編)
日本初公道レースのコース安全検証にICT土木技術を活用(3次元モデル編)
3次元測量と3DCADを使ったコース設計を行い、完成した3次元モデルはコースの安全証明と大会運営の安全対策に活用されました。
ところが、この大会にはコースの安全検証・安全対策以外に、もう一つ大きなミッションがあったのです。
日本初の試みに課せられた無謀なミッション
もう1つのミッション・インポッシブル(A1市街地グランプリサイトより)
公道を使用するために必要なもの、それは警察からの「道路使用許可」です。
もちろん、このレースでも例外なく許可が必要でした。
大会直前の9月1日に道路使用許可証が発行され、その結果がA1市街地レースクラブのSNSで発信されましたが、その発信への反響の大きさからこの許可証の重みが感じられます。
ところが、道路使用が許された時間はたったの「6時間」でした。
この限られた時間の中で、コース設営~レース開催~コース撤去という工程を全て完了させなければならなかったのです。
そんな無謀ともいえるミッション達成を支えたのが「3次元モデル」の存在でした。
ミッション達成のカギは「3次元モデル」
2017年、2018年に実施した3次元測量成果を基に、当初予定していたコースは3DCADを使って設計しています。
コース幅員、路面勾配、コーナー角度など、安全証明に必要な要素を3次元設計図から抽出。専門家らにより安全が証明され、レース開催決定までの警察・道路管理者・JAFとの度重なる協議には3次元モデルが活用されました。
そして、2019年9月に翌年のレース開催が正式に発表され、それに向けた準備があわただしくスタートしたのです。
公道上へのコース設置には、イタリア製の安全防護帯「Go Track Barriers 」という衝撃吸収バリアが使われました。
1個が、横100cm・幅42cm・高さ40cmの大きさのバリアを連結させ、それらを繋げてコースを作り上げます。
車両衝突時の衝撃吸収率を上げるために補強する箇所や緊急車両通過用の開口部など、設置個数や設置方法も3次元設計データを使って綿密にシミュレーションされました。
新型コロナウィルスの影響により大会規模が縮小され、予定コース延長が783mに変更となった以降も、直ちに変更情報をデータに反映させ、コース設営・撤去の作業時間を逆算し徹底した工程管理が行われました。
徹底した作業工程管理
徹底した作業工程管理
この日本初の公道レースは、レース終了後コースを全て撤去し規制された道路が元通りに規制解除されて初めて成功と言えるものです。道路規制開始から解除までの作業工程ポイントは次の3点でした。
- 道路封鎖からJAFの最終査察までの2時間でコース設置
- レース終了後1.5時間でコース撤去
- 道路清掃後、15:00までに規制解除
これらの作業を道路使用が許可された9時~15時の6時間で行うという工程管理だったのです。使用するバリアの個数は1620個、270セット。これらを全て設置し、撤去するという想像を絶する作業内容でした。
そのために、主催者がおこなったのは総勢250名のボランティアスタッフへの説明と実技訓練による事前準備でした。ICT土木の現場でも、作業に携わる全員の意識共有とゴール設定、綿密な作業計画と工程管理は、工事を成功させる上で非常に重要なことです。
国土交通省が推進するi-Constructionの取組におけるICT技術の活用には、4D(時間管理)、5D(コスト管理)が含まれています。
この大会では、3次元モデルを使ったことでバリア設置個数を正確に把握し作業時間を逆算して管理することができました。
また同時に、バリア発注個数や運送手段の選定といったコスト管理にも、3次元モデルは大いに活用されたのです。
わたしたちはこのような取組を通じて、同じように3次元モデルを活用したICT土木現場の4D、5D管理への道筋を再確認することができました。
最後の決め手は人の力
総勢250名のボランティアスタッフの方々の当日の動きは完璧でした。事前研修を活かした無駄のない作業、イレギュラー発生時の迅速な対応など、このレースを成功させるという共通意識が成せる感動的なシーンをあらゆるところで見ることができました。
そして、わたしたちが注目するのは、コース設営・撤去を担当したボランティアスタッフの約半数が建設会社の従業員の方々だったということです。
地方の建設会社はいわばライバル同士。そんな彼らが一致団結し、いち市民同士として企業間の枠を超えて地域のために協力しあう姿に、江津市の建設業界の新たな未来が垣間見えた気がします。
道路上での作業に慣れたプロ集団がボランティアスタッフの中に含まれていたことは、大会主催者にとっても心強かったことでしょう。そしてなんと、無謀とも思われたこのミッションは、瞬く間に作業が終了し、予定時間よりも早く道路規制は解除されました。
まとめ
日本初の公道レースの成功は奇跡的な出来事だったのかもしれません。
数時間前までレースが行われていたのに、何ごともなかったかのように静まり返った道路を見て、夢を見ているような気分にさえなりました。
しかし、このミッション達成には「奇跡」という言葉で片づけることができない、それを裏付ける綿密な計画と徹底した準備があったことを忘れてはいけません。
その一助となったのが、ICT土木技術を活用した「3次元モデル」でした。
何より、この日本初の成功を支えたのは、地域の守り手である建設会社の方々のみならず、地元を愛する住民の皆さんであったことは言うまでもありません。
わたしたちSGMは、3次元測量や3次元設計データ作成はもちろんのこと、施工計画から出来形管理の工程まで全て自社対応でICT施工のサポートを行っています。ICT施工の取り組みでお困りの方、もっと効率を上げたい方、利益を上げたい企業様などお気軽にご相談ください。
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