これまで皆さんが1度は出席したことがあるであろうICT、BIM/CIM、DX関連の研修やセミナーは、全国各地でいろいろな主催者により開催されています。
このような研修セミナーで得られる知識や技能には、専門技術、安全対策、施工管理、法規関連、人材育成などがあり、机上研修や実技研修といった項目や手段もさまざまだと思います。
そんな中、皆さんにとって最も身近な研修セミナーの主催者と言えば「建設業協会」ではないでしょうか。
建設業協会と一言で言っても、全建と呼ばれる全国建設業協会、都道府県建設業協会、都道府県下各地区の建設業協会に分かれます。
今回のコラムでは、とある県下地区の建設業協会が主催したICT施工関連のセミナーで、協会の開催趣旨通りの効果が得られた事例をご紹介します。
地方の中小建設企業にとって、研修セミナーは建設ICT化の大きなきっかけになり得ます。
建設業協会のみならず、研修セミナーを主催される団体の方はぜひご参考ください。
なぜICT施工関連セミナーを開催したのか
ICT施工関連セミナーを実際に開催されたのは、島根県浜田地区建設業協会様です。内容は、中国地区で整備されている「中国ICTサポート制度」の説明会でした。
国土交通省の各地方整備局では、i-ConstructionやICT施工に取り組む建設会社に対してサポートやアドバイスを行う制度を設けています。
こちらの地域を管轄する中国地方整備局では、令和2年度からICTサポート制度が整備されました。
ところがこの制度、直轄工事の元請け企業は知っていても、自治体工事を主戦場とする中小建設企業にはあまり知られていないのが現状でした。
同協会会員の多くを占めるのは中小建設企業ですから、まずは制度を知ってもらおうというのが今回の開催趣旨です。
さらに、中小建設企業がICT施工に取り組めていない現状の課題を解決するため、サポート制度を活用すればもっとチャレンジしやすくなるのではないかと考えられたのです。
ICTサポート制度説明会の内容
説明会は次のような構成で開催されました。
議題 | 発表者 |
---|---|
1.島根県内のICT活用工事について | 島根県浜田地区建設業協会事務局 |
2.中国ICTサポート制度について ・ 制度概要 ・ サポート内容例 ・ 制度活用事例 |
中国ICTサポート企業 (ストラテジクスマネジメント株式会社) |
3.制度利用者からの助言など | 協会会員 (森下建設株式会社) |
まず、冒頭に島根県浜田地区建設業協会事務局による説明会の開催趣旨と地域のICT活用工事の状況説明があり、次に中国ICTサポート制度の詳細をサポート企業である当社が説明しました。
ICT活用工事では具体的に何を行うのか、そのために必要な知識や技術は何かを説明し、自社が今対応できる状態にあるかをイメージしていただきました。
最後は、実際に制度を活用した協会会員である建設会社の社長から、これからICT施工に取り組む上での助言を経験者としてお話いただきました。
ICT施工をやらないといけないのはわかっているけど、具体的な道筋が見えないことで取り組みが遅れている企業は少なくありません。まさに、そのような企業にとって有効な制度であることをそれぞれの立場から伝えられた説明会でした。
説明会をきっかけに一歩を踏み出した中小建設企業
説明会終了後、参加されていた会員様から次のような要望がありました。
その後、詳しい工事内容を伺い、いくつかの打合せを経て、当社がICT活用工事の現場をサポートすることになりました。
本格的に現場が動き出す前の知識補充、発注者との協議の進め方、協力会社への依頼内容と技術選択に関する助言を行い、ICT活用工事を初めて取り組むにあたっての不安要素をできるだけ少なくします。
全体像を把握してから実施内容を具体化するため、まったく新しいICT現場であっても、日々の現場管理に集中することができます。
現場が動き始めるとイレギュラー発生はつきものですが、起こりうる事象を事前に予測しておくだけでも対処レベルは各段に上がります。いくつかの対処パターンを用意しておき、事象にあわせて選択するだけなので慌てることが少なくなります。
また、仮に何かが起きても頼れるアドバイザーがいるという安心感を得られるのが、サポート制度を活用する最大のメリットと言えます。
ただし、有償のサポートを受けるとなると会社としては投資の要素が大きくなります。
この投資で回収できるものは何か。
ICT施工のノウハウ、実績、現場責任者の自信、次の現場にチャレンジする気持ちなど、得られるものは計り知れませんが、実際に会社として採算がとれるかどうかは経営者の判断にゆだねられます。
自治体発注工事で初ICT施工!中小建設企業が今からチャレンジできる理由とは
まとめ
地方の中小建設企業がICT施工にチャレンジできないのは、「やろうと思える環境」ひいては「できると思える環境」にいないことが大きく影響していると考えます。
そこに早い段階で気づき自社で環境提供できている企業は、すでにICTトップランナーとして活躍されていることでしょう。
環境整備にはいろいろな形があり、補助金や助成金、基準類や要領も環境の一つと言えます。
しかし、それは建設ICT化に積極的かつ、できると思えている企業に有効なものです。
当社は、それよりも一つ前段階の環境整備が必要だと考えます。それが今回のような説明会です。
地域の守り手である地方の中小建設企業。彼らが建設ICT化に取り組むきっかけ作りに適任なのは、各地区の建設業協会や業界関連団体の皆さんではないでしょうか。