経費がかさんで利益が出しにくいイメージが強いICT施工ですが、みなさまのICT現場はいかがでしょうか?
企業規模や現場によって千差万別なので、ICT現場の利益化を比較することは簡単ではありませんが、自社のICT現場状況をできるだけ客観的に分析したいところです。
前回のコラムでは、地方の中小建設企業である森下建設株式会社(島根県江津市)を例に、独自の指標をもとにICT導入から利益化までのプロセスを解説しました。
▽前回のコラムはこちらからご覧ください。
現場単位で利益を出すためのICT導入【森下建設株式会社の実績①】
今回のコラムでは、引き続き森下建設を例にさらに違った角度でICT導入と利益化までのプロセスを解説したいと思います。
まだまだある森下建設のICT取り組みの特徴
前回のコラムでは、ICT活用工事適用になるかならないかに関わらず、すべての現場でICT技術活用を検討することから始めるという森下建設の特徴をお伝えしましたが、他にもまだまだあります。
- 在籍する監理技術者の全員がICT活用工事に対応できる
- 建機オペレーターや手元作業員もICT施工を理解している
- ICT技術の導入で元々の高い施工力が強化されている
そんな森下建設は県内外問わず多方面から高く評価されています。
業界メディアの講習会や発注者勉強会への講師依頼
これまでのICT取り組み実績から、様々な講習会や勉強会など、地域内外の発注者や業界関連団体からの講師依頼が多く、森下社長や土木部長の講師経験も豊富です。
日経コンストラクション(日経BP)の特集記事に掲載
2022年3月発行の日経コンストラクション特集記事「やればできる生産性2割アップ」の中で、先行事例の軌跡として社内ICT化の取り組みが掲載されました。
令和4年度中国インフラDX表彰の受賞
インフラ分野のDXに係る優れた取り組みを行った企業・団体として、国土交通省中国地方整備局より、中国インフラDX表彰が授与されました。
先日、当社がサポートをする企業が、中国地方整備局の「令和4年度インフラDX表彰」を受賞されています😁
受賞現場では「擁壁工」「アンカー工」など、新たなICT活用の取組みにも挑戦を行いました。
今年度の国土交通省の出来形管理要領にも新たな適用工種として追加いただく取組み事例になりました😊 pic.twitter.com/whPQOJWJ2E
— 川口太助_建設ICT.com(DX・i-Constructionスペシャリスト) (@icon_kawaguchi) January 24, 2023
国土交通省が目指すICT現場の生産性2割向上
みなさんは、国土交通省が掲げるi-Constructionの目標の一つに「2025年までに建設現場の生産性2割向上」があるのをご存じだと思いますが、2割向上させる「生産性」とは具体的に何を指すのかがピンとこない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
業界関連メディアとして、そこに切り込んだ特集をしたのが先に紹介した日経コンストラクション(日経BP)です。
※特集はこちら
▽参考コラム
真の生産性向上とはーDXとICT技術導入は建設現場の利益化につながるのかー
国土交通省は、省人化と工事日数削減から算出される仕事量の増減を生産性の指標として、従来施工とICT施工の比較をしています。
ここでは、施工日数削減に注目し森下建設のICT施工現場の実績をいくつかご紹介したいと思います。
比較事例① 道路改良工事
指定仮設の工事用道路工事で、盛土高10m以上かつ急カーブのRが続く現場。
従来施工であれば丁張掛けに苦労する法面に対して、ICT施工により丁張レス施工を実現し、1ヶ月以上の施工期間を短縮。
3次元設計データの作成はパートナー企業(当社:ストラテジクスマネジメント株式会社)に外注することでICT施工に専念。
比較事例② 河川工事(路体盛土工)
約3万㎥の河川堤防の路体盛土工。ICT施工により丁張レス施工を実現し、従来施工と比べて1ヶ月以上の施工期間を短縮。
自社で追加作成した施工用の3次元設計データを有効活用し、施工性が向上。
比較事例③ 河川工事(河床掘削工)
洪水対策用の大規模河川工事(河床掘削工事)。ICT建機を活用した丁張レス施工を行い、従来施工と比べて1ヶ月以上の施工期間を短縮。
3次元設計データ作成はパートナー企業(当社:ストラテジクスマネジメント株式会社)と連携することでICT施工に専念。
わたしたちは、ICT導入による真の生産性向上は現場単位で利益を出すことという考え方を提唱していますが、そもそも仕事量を指標にした生産性向上が利益化に直結しているとは言い難いという考えがもとにあります。
ただし、確実な利益確保のためには省人化や工期短縮が必要不可欠な要素であることは間違いありません。
森下建設の実績からも、それを感じていただけるのではないでしょうか。
元請けと下請けのバランス(下請けのメリット)
創業以来、元請主体だった森下建設ですが、現在の社長就任後は下請に入る現場を意図的に増やしました。
その理由の一つには、ICT導入をきっかけに社内のICT施工ノウハウの蓄積スピードを加速させる狙いがありました。
ICT施工元請の場合
公共工事の工事期間は規模や工種にもよりますが、通常数カ月~1年以上になるため、元請けの場合は関わる技術者も基本的には同じ期間同じ現場に拘束されます。
元請け主体の企業でよくあるのが、ノウハウが限られた人にしか蓄積されないというケースです。
施工管理者の有効求人倍率が年々右肩上がりの建設業界において、引き抜きを含めた優秀な人材の転職リスクは常につきまといます。
なかにはICT施工経験者やICT専門の担当者に転職されてしまい、ICT工事に対応できなくなる企業も少なくありません。
ICT施工下請の場合
ところが、下請けの場合だと施工期間が終われば現場から離れることができます。請負金額によっては管理者が現場を兼任できるとなると、ICT施工ノウハウの蓄積スピードが速くなるのは容易に理解いただけると思います。
加えて、同時に多種多様な工種や現場に携わる機会が増えると、おのずと関わる人材も増えるため特定の担当者にノウハウが偏ることを避けられるのです。
あなたの会社はどうすればいいのか
ここまでの話を自社に置き換えて読んでくださっていると幸いです。ぜひ前回のコラムを参考にご自身が関わる現場の利益率を分析してみてください。
まずは現状の可視化から始めましょう。
もう道はできているのですから、先の事例をトレースして自分のものにしていけば良いと思います。
「でも、始めた時期が違うし」
「うちの会社とは条件が違うから」
「発注が多い地域だからできるんでしょ」
そんな声が聞こえてきそうですが、毎年度改定する積算要領の内容が当初の条件から変更されているのはご存じでしょうか。それを見ると、いつまでも同じ条件でICT予算が出つづけるとは限らないことがよくわかるかと思います。
もう猶予期間はないことを今一度お伝えしておきます。
企業や現場、人材も二つとして同じものはありませんし、他社との違いを言い出せばキリがありません。
まずは現状を可視化し、ICT導入後のゴールを設定して必要なプロセスを一つ一つ歩んでいきましょう。
まとめ
今回のコラムでは以下の点をお伝えしました。
- 施工管理者以外の人材もICTを理解している森下建設
- 森下建設のICT施工スキルの高さを証明する工事日数の短縮
- 下請け比率を上げたのはICTノウハウ蓄積スピードを加速するため
- まずは現状を可視化しよう
「やらなきゃいけないのはわかるけど、具体的にどうやって進めていけばいいのかがわからない」
当社へのお問合せで最も多いのが、このような内容です。
国土交通省のいくつかの地方整備局では、ICT施工に取り組む企業をサポートする制度を設けています。
このようなお悩みを解決するためには、発注者が整備する制度や民間企業のサービスを活用して他社にサポートしてもらうのが有効です。
わたしたちは中国地方整備局の「中国ICTサポート企業」、関東地方整備局の「ICTアドバイザー」企業に登録しており、他地域からもお問合せを受け全国でサポート活動をしています。
おはようございます😁
先日、関東地方整備局からICTアドバイザーの感謝状をいただきました。ひきつづき、みなさまのお役に立てるように精進してまいります。
本日もみなさまにとって素晴らしい一日になりますように。本日もご安全に😊 pic.twitter.com/Jijegdwnzs
— 川口太助_建設ICT.com(DX・i-Constructionスペシャリスト) (@icon_kawaguchi) April 10, 2023
ICT現場単位で利益を出すためには、施工管理者がICT技術の活用と管理方法をしっかり理解していることが大前提であり、そのうえでICTへの知見と施工スキルを備えた施工会社や協力会社と共に工事に取り組む必要があります。
何度も言いますが、もはやICT施工に関してはトライ&エラーを繰り返しながらノウハウを蓄積していくフェーズではありません。
時間に猶予がない今、それらを実現させるカギとなるのがパートナーシップを組めるICTサポート企業の存在ではないでしょうか。
i-Construction取り組み当初からわたしたちと二人三脚で歩んできた森下建設の実績がそれを証明してくれていると感じます。