こんにちは。i-Constructionスペシャリストの測量士、川口です。
前回の記事では、「3次元設計データと3次元施工用データの違い」についてお伝えしました。
今回は、3次元データを作成するための「3次元設計ソフトウェア(3DCAD)の特徴と選定のポイント」をICT施工現場の生産性向上の観点からお伝えします。
3次元データはICT施工の肝
ICT施工の現場に行くと、
「複雑な施工面の3次元データを作成することが難しかったから、その部分はICT施工範囲から除外しました。」
というお話を耳にします。みなさんも聞かれたことがあるかもしれません。
なかなか表立って顕在化されにくい部分ですが、「3次元データを作成できなかった」という理由で、ICT施工範囲を当初の予定より縮小するといったことがICT施工現場で全国的に起こっています。
また、3次元データの間違いが原因でICT施工が従来施工に変更になることは前回の記事でもお伝えしました。
ICT建機を購入またはレンタル・リースした経験がある方はご存知だと思いますが、いずれの場合も、ICT建機は従来建機より高額です。この高額なICT建機を手配しても、適切な3次元データがなければ、ICT建機の機能をフル活用することができません。
すなわち、現場に応じた適切な3次元データを作成し、手戻りなくICT施工を活用することが生産性向上および利益化に必要不可欠なのです。
そこで重要なのが、3次元データ作成の技術と、その3次元データを作成するための3次元設計ソフトウェア(3DCAD)の選定です。
3次元データ作成の技術についてははまた機会を改めるとして、次から、3次元設計ソフトウェア(3DCAD)の特徴と選定のポイントについて説明します。
3次元設計ソフトウェア(3DCAD)の特徴
では、初めて3次元設計ソフトウェア(3DCAD)の導入を検討する際は、どのような点に注意したらよいでしょうか。
特徴をわかりやすく解説するために、以下の2種類(Aグループ、Bグループ)に分類しました。
Aグループ | Bグループ | |
---|---|---|
1.学習コスト | 比較的低い | 高い |
2.簡単な施工面の対応 | ◎ (自動作成機能有) |
〇 |
3.複雑な施工面の対応 | △もしくは× | 〇 |
Aグループ:学習コストは低いが、複雑な断面の作図は難しいソフトウェア
- 2次元発注図面をもとに自動作図機能なども有し、比較的容易に3次元設計データを作成することができる
- 複雑な断面の作図は難しい、または現場によって断面が複雑すぎてソフトが対応できない場合もある
- 学習コストは低い(習得までの時間が比較的短い)
Bグループ:学習コストは高いが、複雑な断面まで作図可能なソフトウェア
- 作図の自由度が高く、複雑な断面の作図まで対応することが可能
- 基本操作を習得後も、複雑な断面を作図するためには応用スキルの習得まで求められる
- ソフトウェアの学習コストは高い(習得までの多くの時間を要する)
上記AとBの間に、各社のソフトウェアが分布して存在しています。
図に表すと、このようになります。
重要なのは、導入前の検討段階でそれぞれのソフトウェアの特徴をよく理解し、会社の目的と施工現場に合った最適なソフトウェアを選定することです。それが結果的に生産性向上と利益化へとつながっていきます。
3次元設計ソフトウェア選定のポイント
上記のように、3次元設計ソフトウェアには各メーカーの特徴があり、作図の対応範囲もそれぞれ異なります。
さらに、道路土工や河川土工、構造物の有無など、ICT施工の現場はそれぞれ異なりますし、作図要素も違います。それぞれの現場にあわせてソフトウェアの使い分けができたらベストでしょう。しかし、コストを考えると複数ソフトの使い分けは現実的ではありません。
この場合、ソフトウェア選定の指針として、「3次元設計データ作成の内製化をどのレベルまで目指すか?」を考えてみるとよいでしょう。
「内製化の目標レベルを定める」とは、「どこまで複雑な3次元データを自社で作図するか?」という3次元設計データ作図スキルの目標値を定めることです。
目標レベルの例です。
- レベル1: 作図から全てのプロセスを外部に委託し、自社で作成しない。
- レベル2: 作図が比較的簡単な現場は自社で対応し、複雑な作図を要する現場は外部に委託する。
- レベル3: 全ての現場の作図を自社で対応する。
目標レベルの設定は、各社受注する工事規模、工種などの内容によっても異なりますし、元請(管理)か下請(施工)によっても異なるでしょう。
目標レベルが定まれば、それを満たす作図が可能なソフトウェアを選択するだけです。
目標レベルを定めるメリットは他にもあります。
自社内で作図が「できる」または「できない」のラインが明確に区別できていると、新たな現場を受注する際に事前準備の効率が格段に変わります。作図ができる場合はすぐに作業に取り掛かる事ができますし、できない場合は委託先へ依頼するという判断が迅速にできますので、時間効率もアップします。
ソフトウェア選定のポイントは、これ以外にも、
- 費用(初期およびランニング)
- 国土交通省が定める基準への準拠度合い
などがあります。
これらのポイントを総合的に判断して、自社に最適なソフトウェアを選定すれば生産性向上につなげることができるでしょう。
まとめ
本日は3次元設計ソフトウェア(3DCAD)をテーマに、ソフトウェアの特徴と選定のポイントをお伝えしました。
我々が肌で感じるのは、各ソフトウェアメーカーが、現場の意見を汲み取って日々仕様のアップデートに努めていることです。
そのため、今回お伝えしたAグループとBグループの差は、年々小さくなっているようにも思います。
具体的に「どの3次元ソフトウェアがどの特徴に当てはまるのか」、「3次元データ化が簡単な現場、難しい現場の判断はどのようにしたらよいか」などのご質問がありましたら、コンサルティング、セミナー、施工サポートも行っていますので、お気軽にお問い合わせください。
ICT施工実務シリーズ
【ICT施工実務シリーズ①】3次元設計データと3次元施工データの違い
【ICT施工実務シリーズ③】3次元測量で起こりやすいトラブル事例