2022年度を迎えるまで残り1ヶ月となりました。
2021年度は、国が掲げる「2025年度までに建設現場の生産性の2割向上」のコミットに対して、業界全体でのi-Constructionの取組みが加速しているのを実感した一年でした。
また、直轄のICT活用工事の発注では、発注方式「施工者希望型」から「発注者指定型」の工事ばかりになり、BIM/CIM活用工事の発注件数もみるみる増加しています。
2022年度のICTへの取り組みは「待ったなし」の状況と言えます。
そこで、今回のコラムでは、一日でも早くICTの取り組みを始められるよう、建設ICT化の必要性とその理由をわかりやすくお伝えします。
目次
理由1)明確に打ち出される国の方針
国土交通省の取り組み方針
昨今、建設業界問わず耳にする機会が増えた「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉。国土交通省では「インフラ分野のDX」という言葉で方針が出されており、本省をはじめ各地方整備局にはインフラDX推進体制が2020年に整備されました。
建設業者のためのよくわかる建設DX|今知っておきたい「デジタルトランスフォーメーションからインフラ分野のDXまで」を徹底解説!
この組織図を見ると、i-ConstructionやBIM/CIMの取り組みはインフラDX推進の一環であることが理解できると思います。
ICT技術の全面的な活用はi-Constructionの「3つの柱」の一つです。i-Constructionを包括する方針が掲げられた今、その取り組みの一つであるICT活用工事への対応は必須になるのではないかと考えます。
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内閣府の打ち出す方針
このような取り組み方針は国土交通省だけから発表されているわけではありません。2016年に内閣府が開催した第1回未来投資会議では、「2025年までに建設現場の生産性2割向上」のコミットが掲げられました。
また、同じく内閣府が開催する第16回経済財政諮問会議(2021年12月3日)では、社会資本整備の重点課題として「中小建設業等におけるICTの活用、インフラDX等の全国展開等を徹底して推進すべき」といった議論がなされています。
このような議論が行われる目的は、内閣府が2016年より提唱する我が国の目指すべき未来社会「Society5.0」の実現であり、その重要な国家戦略を進めるにあたり必要な取り組みがインフラDXやi-Constructionなのです。
i-ConstructionやICT活用工事への取り組みが国の重要国家戦略に含まれている以上、日本企業として対応しないという選択肢は無いと言えます。
理由2)深刻な建設業界の課題
高齢化と人材不足
次のグラフは、建設業を取り巻く現状と課題について国土交通省が発表した資料の一部です。
このグラフから読み取れるのは次の3つです。
- 技術者の高齢化と若手人材不足
- 技術、技能継承の難化
- 建設業界全体の労働力不足
国土交通省の表現通り、高齢労働者の大量離職が見込まれるが、それを補う若手入職者の数が不十分であることから、これまでのようなベテラン技術者からの技能継承は困難な状況になってきています。
あわせて、業界全体の労働力不足による生産性低下も危惧されます。
技能継承にかけられる時間は無い上、どんどん労働力が不足していくとなると、ICT活用への積極的な取り組みや働き方改革の推進が急務なのです。
改正労働基準法の適用
また、2024年4月1日から「建設事業にて労働時間の罰則付き上限規制」が適用されることが決定しています。建設業界以外では、2019年4月から同規制の適用が開始しており、建設業界は現在5年間の猶予期間にあたります。
このため、これまでと同じパターンの働き方はできなくなるわけですから、この労働基準法改正適用が間近に迫っているということも、強制的に生産性を向上せざるを得ないポイントだと考えます。
理由3)BIM/CIM原則適用の前倒し
国土交通省が「2023年度までに小規模土工を除く全ての公共工事にてBIM/CIM原則適用」という方針を掲げているのはご存知だと思います。
当初の発表では「2025年度までに全ての公共工事にてBIM/CIM原則適用」という表現になっていましたが、2年前倒しされました。
BIM/CIM原則適用とは、言い換えると「2023年度までには、全ての公共工事にて3次元データ(3次元モデル)の活用が原則 」ということです。
そのため、BIM/CIM原則適用に向けた準備期間で残されているのはわずかな期間となり、この2022年の取り組みが大きなカギを握ることになるでしょう。
理由4)対象工事はまだまだ増加中
i-Constructionの取り組み発表以降、直轄工事はもとより自治体発注のICT施工実施件数は毎年増加しています。
増加の理由の一つは「工種の拡大」です。当初は土工のみでスタートしたこの取り組みは、今年度ICT構造物工、小規模工事へと拡大が予定されており、今後の実施件数のさらなる増加が見込まれます。
また、2021年度から直轄工事における発注方式のうち、発注者指定型の対象工事が「工事規模6千万円以上かつ10,000㎥以上の土工事」に拡大されました。そのため、ICT対象工事の中でも発注者指定型の工事が全国的に増えたのです。
このような状況を考えると、ICT対象ではない工事(従来工事)だけを受注するのは難しくなると言えます。
理由5)約15兆円規模の国土強靭化対策
2021年度から5年間、重点的に123の対策を講じるとして2020年12月に閣議決定した「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」は、おおむね15兆円程度の事業規模で進められています。
これは、近年激甚化する風水害、切迫する南海トラフ地震などの大規模地震に対し、国民の生命・財産を守り、社会の重要な機能を維持することを目的の一つとしています。
地域治水や港湾における津波対策、災害に強い市街地形成に関する対策、道路などの老朽化対策、無人化施工技術の安全性・生産性向上対策など、国土交通省が講じるものが数多く含まれています。
123のうち78が風水害、大規模地震などへの対策で、おおむね12.3兆円程度とその事業規模は全体の8割を超えます。
そのため、今後予算にあわせた公共工事の増加が見込まれると同時に、事業を進める上で無くてはならないのが地域の守り手である建設会社だということは言うまでもありません。
まとめ
2022年1月、帝国データバンクから「破綻リスクがある建設会社が2021年12月末時点で推計2万6000社にのぼる」とのリポートが発表されました。この数字は3年前から見ると倍増しています。
これまで述べてきたことを踏まえると非常にショッキングな発表であり、ますますICT化の取り組みを急ぐ必要性を感じます。
今回ご紹介した内容は、すでに公表された情報をわたしたちが独自でまとめたものですが、わたしたちは建設業に携わる企業にとって、この2022年度の取り組みが今後を左右すると言っても過言ではないと考えます。
皆さんにとってこのコラムが一日でもはやくICTへの取り組みを始めるきっかけになれば幸いです。